重度訪問介護の事務連絡(2/16)の解説
2月16日に重度訪問介護の事務連絡が厚生労働省から出ました。
一部の市町村で本来は身体介護で支給決定しなければならない1回当たり短時間のサービスを、単価の低い重度訪問介護で決定している法律違反の実態があるため、それを防止するためです。
重度訪問介護は、厚生労働省としては、初めて毎日24時間連続ヘルパー利用者などを想定して作られた制度で、連続8時間勤務のヘルパーの人件費を想定して低い単価設定になっています。(8時間連続で重度訪問介護を利用する障害者に、ヘルパーが8時間連続でサービスを行うという形態を想定しています。)
しかしながら、一部の悪質な市町村では、従来、身体介護で行っていた、「短時間のサービスを1日に数回利用している重度全身性障害者」に対して、一方的に重度訪問介護で決定しています。
このため、利用できる事業所が全くなくなった障害者や、劣悪なサービス水準の事業所しか選択できなくなった障害者が出ています。
厚生労働省は市町村に対して口頭指導していますが、法律違反行為を行う市町村の数がかなりの数になっているため、今回、事務連絡を出すことになりました。
(事務連絡本文は次ページから)
(詳細解説は3ページ先から)
事務連絡
平成19年2月16日
各 都道府県障害保健福祉担当課 御中
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部 障害福祉課 重度訪問介護等の適正な支給決定について
平素より障害者自立支援法の施行に御尽力いただき厚く御礼申し上げます。
さて、訪問系サービスについては、平成18年10月に再編を行ったところですが、障害の状態やニーズに応じた支給決定が適切に行われるよう、下記の点に留意いただきたく、管内市町村への周知徹底方よろしくお取り計らい願います。
厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部
障害福祉課訪問サービス係
電 話 03-5253-1111(内線3038)
FAX 03-3591-8914 |
1 居宅介護について
居宅介護は、短時間(1回当たり30分〜1.5時間程度が基本)集中的に身体介護や家事援助などの支援を行う短時間集中型のサービスであり、その報酬単価については、所要時間30分未満の身体介護中心型など短時間サービスが高い単価設定になっているが、これは、1日に短時間の訪問を複数回行うことにより、居宅における介護サービスの提供体制を強化するために設定されているものであり、利用者の生活パターンに合わせて居宅介護を行うためのものである。
2 重度訪問介護について
重度訪問介護は、日常生活全般に常時の支援を要する重度の肢体不自由者に対して、身体介護、家事援助、日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守り等の支援及び外出介護などが、比較的長時間にわたり、総合的かつ断続的に提供されるような支援をいうものであり、その報酬単価については、重度訪問介護従業者の1日当たりの費用(人件費及び事業所に係る経費)を勘案し8時間を区切りとする単価設定としているものである。
3 重度訪問介護等の支給決定にかかる留意事項
- (1)重度訪問介護については、
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・1日3時間以上の支給決定を基本とすること
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・1日に複数回の重度訪問介護を行った場合には、これらを通算して算定することとしているが、これは、1日に提供されたサービス全体でみた場合に、「比較的長時間にわたり総合的かつ断続的に提供」されているほか、1日に複数回行われる場合の1回当たりのサービスについても、基本的には、見守り等を含む比較的長時間にわたる支援を想定しているものであり、例えば、短時間集中的な身体介護(見守りを含まない)のみが1日に複数回行われた場合に、単にこれらの提供時間を通算して3時間以上あるようなケースまでを想定しているものではないこと。
- (2)このため、上記の重度訪問介護の要件に該当する者であっても、サービスの利用形態によっては、重度訪問介護ではなく居宅介護の支給決定を行うことが適切である場合があること。
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重度訪問介護の2/16事務連絡の詳細解説
重度訪問介護は、厚生労働省が初めて24時間連続利用者を中心に想定した制度のため、従来の日常生活支援よりも単価が下がったのは問題ですが、一方で、厚生労働省幹部は24時間介護が必要な障害者もいることを認めています。これは10年前にはなかったことです。各地の障害者自身の運動が国の施策を変えていったということです。
重度訪問介護は、8時間以上の連続利用でなければ、ヘルパーを確保することが難しいような低い単価設定(1時間平均1550円)となっていますが、これに対して、身体介護は1時間4000円と高い単価設定になっています。身体介護の単価は、1日8時間勤務のヘルパーが午前中に1回、午後に2回サービスを行うなどで、1回あたりサービスは1時間〜1.5時間程度を想定した単価設定です。
1日3回の身体介護の短時間サービスの単価の合計と、8時間連続利用の重度訪問介護はほぼ同じ単価となります。
また、重度の全身性障害者の場合、介護方法が個々人に応じてまったく違うため、有能なヘルパーでも、新しい障害者の介護に入って、介護に慣れるまでに、数ヶ月から1年かかるのが普通です。
このため、ヘルパーが変わることは重度障害者にとっては大変な苦痛で、そのようなことが続いたため、体力が落ちて肺炎で亡くなる重度障害者もいます。
事業所に適切な単価が保障されないことは、ころころ変わる非常勤や登録ヘルパーでの対応(しかもきわめて時給を下げざるを得ない)につながり、介護方法も十分に覚える前に変わっていくため、重度の全身性障害者は体調を崩して命を奪われる危険があります。
(様々な障害者がいるため、例外もあり、すぐに介護が可能な全身性障害者もいますが、それは一部です)。
重度訪問介護の場合、障害者が1日8時間以上利用する場合も、24時間の利用の場合も事業所の受け取り分は同じと想定されています。重度訪問介護の場合、事業所がヘルパーに支払った後にサービスのフォローアップのための費用分として受け取る分は単価の5%程度と考えられて単価設計されており、1日8時間以上の利用の場合はこの5%分もなくなります(8時間を越えると5%単価が下がる)。しかし、この程度の費用では最重度の利用者の場合は全く足りないため、各障害者団体では単価を上げるように運動を続けています。人工呼吸器利用などの最重度障害者は8時間の連続利用の希望であっても、県内の全部のヘルパー事業所から断られることもあるほどです。重度訪問介護を行うヘルパー事業所は、連続8時間などの長時間連続利用であっても、ヘルパーの確保がなかなかできずに困っています。
通知等に具体的に下限時間を書けない理由
重度訪問介護の通知や事務連絡で、具体的に「1回何時間未満のサービスは禁止」と書けないのは、全身性障害者の中にも、わずかですが、一部、必要とされる介護内容がそれほど難しくなく、家事や見守りのみという障害者もいるためです。
たとえば、食事やトイレは「危なっかしくも、何とか自分で行える」という全身性障害者の場合、従来は、朝1時間、昼1時間、夕1時間の家事援助のサービスを使い、トイレへの乗り移りの見守りや、食事の見守りのみをヘルパーが行い、トイレ転落や食べこぼしの片付けなどをたまに行うという場合もあります。このような障害者の場合、従来から家事援助でサービス提供を受けていたので、重度訪問介護に切り替わっても、事業所は困りません。誰でもすぐにサービス提供可能なので、安い時給の登録ヘルパーで対応しています。重度訪問介護なら無資格者を求人して10時間の研修でサービス提供できるので、確保しやすくなっています。
このようなケースは少ないですが、このような利用者もいるため、(例)「重度訪問介護は1回原則8時間以上とし、見守りの割合が高い場合は1回3時間以上」などの通知が出せない状況です。
しかし、通知等で時間数が具体的に出ないことをもって、市町村が自由に法律違反をすることは許されません。全国の障害者で監視を続けていってください。問題があれば、厚生労働省や当会など障害者団体に情報提供をお願いします。
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