重度訪問介護の24時間利用者が就労中に別の介護制度を受ける事例の紹介
・地域生活支援事業の「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」
・障害者雇用助成金の「重度訪問介護サービス利用者等職場介助助成金」
の両制度の同時利用事例
重度訪問介護は、障害者が就労中通勤中に利用できません。多くの障害者団体や厚労省は重度訪問介護を勤務中も使えるようにしたい希望ですが、財務省の反対で、許可されていません。
そこで、次善の策として、厚労省では、市町村ごとに自由に福祉制度を作れる地域生活支援事業の中に、「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」のメニューを作って、希望する市町村ごとに制度化したら利用できる仕組みを作っています。(移動支援事業などと同じ位置づけ)
なお、企業などに雇用されている障害者については、従来から障害者雇用助成金の職場介助者助成金制度で介護の制度があるため、この助成金とセットでの利用がルール化されています。ところが、この助成金は企業の申請で初めて使える制度であり、書類手続きが大変面倒で、しかも、最初にお金が入るまで10ヶ月前後もかかるため、ほとんどの企業は事務コストや持ち出し資金の多さの問題から申請してくれません。
全国でまだ数十程度の市町村でしか事業実施していませんが「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」の全国での利用は、昨年まで、自営業者や法人の役員など、もとから障害者雇用助成金制度の対象外の障害者のみでした。障害者雇用助成金の対象外であれば、勤務時間と通勤時間のすべてを地域生活支援事業から支給されるので、移動支援事業などと同じような書類で利用できます。
昨年10月より、高知市で2つの制度を利用した事例がスタートしましたので紹介します。たぶん全国初ケースです。
この制度に関する厚労省の資料は
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000602801.pdf
利用者に記事を書いていただきました。
重度訪問介護中の就労と一人暮らし
小嶋 友乃
私は先天性骨形成不全症の中でも最も重度のタイプであり、仕事してるとき、日々の生活の中において24時間の介助が必要です。
高知県高知市で2022年11月から、24時間の重度訪問介護を利用しながら、4人の介助者による一人暮らしを始めました。
私は特別支援学校を卒業してすぐの18歳の頃から家族の完全介助のもと働いており、近年では約6年一般就労にて週数日の職場出勤勤務と在宅勤務を並行しながら勤めています。
一人暮らしをきっかけに、重度訪問介護を利用にあたり、これまでと変わらず就労を継続するためには、重度訪問介護サービス中の就労について、各制度や助成金について申請し、行政機関などに許可を得る必要がありました。
7月頃から職場も交えて協議などを経た結果、10月末に独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構高知支部による「重度訪問介護利用者向け「職場介助助成金」」(全国初の利用)と高知市の就労支援事業(新規事業)にて、在宅勤務(週3日×4時間)が実現しました。
今、私が働く理由・想い・考え
理由は、経済的自立・社会参加・地域とのつながりを持つためであり、安定した生活を送りたいからです。
次に、どんな障害、たとえ重度であったとしても「就労」という形でも輝ける社会であってほしい、卒業後の人生において一つの手段であってほしいと早期確立を願うと同時に、後世に続いてほしいからです。
「進学?就労?」進学が嫌なら残ったのは働くということ。そして大黒柱の父に憧れて働く道へ。
高校2年の就活をした約10年前は、障害者差別解消法はまだ施工されてなく、どの企業や就労継続支援事業所も障害者に対する採用基準において中にはかなり差別的な言葉も明記されていました。
「トイレが自立している人」「自家用車が運転できる人」
当時の私は、全介助である自分について楽観的に捉えていたこともあるかもしれませんが、就活を通して人生で初めてといっても過言ではない「やりたいことが自由に自分では選ぶことができない社会」に絶望を味わったのです。
進路相談の中でも、私の希望や考えより「あなたの障害にはこういう進路先が合っているのでは」という本人置いてけぼりの案が机上に並べられることもあり、それにもまた失望や疑問を感じました。
それでも、勉強が少しばかり苦手だった私は進学は選択肢になく、"好きなことをするならお金が必要だろう""父のように勤め人をしてみたい"という思いの一心で、高校3年の12月までさまざま場所で現場実習を重ね、最低賃金を支払ってもらえる在宅に強い就労継続支援A型事業所が決まりました。
ただ、それは同時に家族が特別支援学校を卒業前よりも24時間つきっきりで介助をするという私は母に大きな負担をつきつけたのです。
当然のことながら母一人では心身ともに疲弊していき、ほかの家族が在宅就労中の介助を行うこともあり、職場出勤時にはサービスを利用できなくないため、大学生含むボランティアがサポートしてくれていました。
4年後に縁があって今の勤務先となる一般就労へと私自身進みましたが、ここでも私個人的な就労中のサービス利用に対しての知識や情報は得られなかっただけでなく、重度障害のある国会議員が活躍し始めた今日も完全にはまだ認められていません。
そのため、重度訪問介護や完全介助を受けながら働きたい・一人暮らししたいと考えていても、「在宅就労中にはサービスを受けられない」ことがネックで家を出ることを踏み切れない数年が続きました。
いよいよ、親の介助では限界を感じた2021年の夏、CIL道のりの代表へ相談したところ、全国広域協会とその傘下のHKを教えてもらいました。そこから長年制度の狭間にいた私の人生の歯車が動き始めたのです。
重度訪問介護中の就労が実現できている今、社会の一員であることを実感できていて生きがいを感じています。
介助者については、自薦ヘルパーだからこそ、一定・安定したケアが安心安全で受けられるメリットを感じています。
まとめ
全国初の取り組みが実現したのは、職場や地元の行政、一般社団法人HKと広域協会の力添えがあったからです。
これらの取り組みが今後全国に拡大し、仲間へ引き継がれることを願ってやみません。
※重度訪問介護については毎日24時間利用者であり、現行では勤務する時間帯のみ、重度訪問介護が使えなくなるため、高知市の行政には就労事業の新設を行っていただき、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構高知支部からは「職場介助の助成金制度」の助成を受けられる形になり、勤務中の介助が受けられることとなっています。
制度利用時間帯
月・水・金 重度訪問介護利用時間 0:00〜10:00 12:00〜13:00 15:00〜24:00
地域生活支援事業と障害者雇用助成金による就労時間の介護制度 10:00〜12:00 13:00〜15:00
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その他の曜日 重度訪問介護 0:00〜24:00
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(以下は介護保障協議会の解説)
*昼休みは、給与の出ていない時間のため、重度訪問介護利用。
*雇用助成金では排泄や水分補給など身体介護はできないため、それら介護は勤務中でも地域生活支援事業利用になる。雇用助成は事務仕事などの時間のみが対象となる。そのため、上記のような1分単位の細かい計画書を事前に作成し、市と機構と職場と利用障害者が相談・調整するが、手間が多くかかる。雇用助成金の時間帯の制度は、企業からヘルパー事業所への支払いとなる。その協議もある。地域生活支援事業部分は、市が独自請求フォーマットを作って、ヘルパー事業所が日々記録し、市に請求する。これは移動支援事業と同じようなものだが、分単位のため細かい。
*今回は、基本自宅勤務のため通勤時間が表にないが、職場に出向くときは、通勤時間は障害者雇用助成金の重度訪問介護サービス利⽤者等通勤援助助成⾦を3ヶ月のみ利用し、その後は地域生活支援事業(雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業)を利用。これも企業の事務の大きな手間になる。
*企業にとっては、とても手間がかかる上に、助成金が入るのは10ヶ月前後先に(最初の6ヶ月分)となる。普通の企業ならこれを協力して申請する企業はまずないと思われる。
今後、この制度の利用を検討する方は、障害者団体などの障害者職員でしたら、副代表などになることで、役員になり、雇用助成金対象外にしてしまい、地域生活支援事業のみの利用者になる方がいいでしょう。
なお、新規制度のため、市町村との協議では、5月頃から大まかな方向性の要望、9月に細かい予算の協議、12月に予算決定、翌年4月に制度開始といった流れになります。