和歌山市の24時間介護裁判
1日16時間から24時間を義務付ける判決が出る
和歌山市で24時間介護の必要な1人暮らしの脳性まひのAさん(自立生活センターが自立支援。)が、重度訪問介護時間数の裁判を行っていましたが、昨年(2002年)12月17日に地裁の判決が出ました。
地裁判決では、市に対し、「重度訪問介護の支給量を1か月500.5時間以上744時間以下とする支給決定をせよ」と命じました。(1日にすると16時間以上24時間以下)。
一部勝訴でしたが、原告は上告しました。
Aさんは6年前に自立し、身体介護3時間を含む1日17時間の支給量でしたが、その3年後、自立支援法の支給決定基準を市が作ったことにより1日12時間に減らされ、交渉により現在は1日15時間の重度訪問介護の支給を受けています。
裁判所の判決の詳細
判決では、和歌山市には、1人暮らし開始後数年たてば生活に慣れたりヘルパーが介護に慣れたりするという理由で時間数を引き下げる基準があるが、脳性マヒの原告は障害が改善するわけではなく、ヘルパーも交代することがあるので、支給量を大幅に引き下げる理由にはならないとしました。
一方で、就寝中に原告には平均して1時間に1回の排泄があり、時には排泄介護の10分後に排泄介護が必要な場合もあると認定しながらも、就寝中に継続的な介護ではなく巡回介護を前提に支給量を決定したこと自体は著しく妥当性を欠くものではないとしました。ただし、市が就寝中の決定時間数を1日2時間分としたことはきわめて少ないとしました。
総合的には、行政処分庁(市)に与えられた裁量権を逸脱乱用した違法な処分としました。しかし、原告が求める24時間の介護については、24時間の支給決定でなければ原告の生命身体に重大な侵害が生じる恐れがあるとは言えないとし、24時間の介護を支給決定しないことが裁量権の逸脱とは言えないとしました。
また、月505.5時間から月744時間の支給決定を行わないことが裁量権の逸脱であるとしましたが、500.5時間は裁判所が適切な支給量を算定したものでは無いとしました。
ALSの2人も裁判
和歌山市は長時間介護の必要な障害者に必要な時間を出さない悪質な姿勢で、自立生活センターとは別の動きとして、高齢の家族と同居のALSの2名も24時間の介護を求めて裁判中です。(障害者自立支援法では、自立した生活ができる支給量を決定することは市町村の責務と規定しています)。
解説
和歌山市では今回判決の出たAさんの裁判と同時にAさんの同じ支給量の県への不服審査請求も行われており、こちらは裁判より先に結果が出ています。不服審査では、県が市の決定を取り消しましたが、市は支給決定時間を変えませんでした。
このような市の姿勢では、今回の判決の判決が仮に確定したとしても最低時間の500.5時間(1日16時間強)を決定すると予想されます。(原告は上告のため判決は確定していない)。
裁判は市の不法行為や明らかにおかしな姿勢を第3者の公的な機関から強制力を持って指摘する効果はありました。しかし、他の多くの市町村では障害者自立支援法2条1項(自立した生活ができる支給決定を行う責務が市町村にある)に基づいて当然に行われている最重度脳性まひ障害者への24時間の支給決定を裁判所が否定する(厳密には「24時間の支給決定を行わないことが裁量権の乱用とまでは言えない」という判決であり、24時間支給決定している市町村の否定ではないが、事実上は最重度脳性まひ障害者に24時間の支給を行わない市町村に対する合法宣言になる)というデメリットも発生しています。
なお、政府の障害者制度改革推進会議では24時間滞在型介護の制度を全国実施することについて、すでに1次報告や2次報告に盛り込んで決定しています。遅くとも2年後の2013年8月実施の予定で障害者総合福祉法を議論中です。新法では裁判で今回のような結果にならないような法律の条文にする必要があります。
2011.01
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