障がい者制度改革推進本部の設置を閣議決定

 政府は、12月8日に「障がい者制度改革推進本部」の設置を閣議決定しました。また、推進本部の下部組織として「障がい者制度改革推進委員会」を立ち上げる予定です。
  この推進本部と推進委員会は、政権交代前の通常国会で民主党が提出した「障がい者制度改革推進法案」(以下「旧法案」)に盛り込まれ、今年の衆院選の民主党マニフェストでも公約されていたものです。
  旧法案やマニフェストなどの情報を総合すると、推進本部や推進委員会の特徴として、以下のことが考えられます。

○障害者権利条約の批准のための国内法整備
   国連障害者権利条約が2006年12月に採択され、2008年4月に発効しています。
しかし、日本は2007年9月に署名していますが、まだ批准していません。
   今回の推進本部と推進委員会は、権利条約批准に必要な国内法整備を最大の目的として設置されるため、5年間に期限を区切って設置されます。

○障害者政策全体の立案
  障害者関連施策は非常に多岐にわたるので、従来は、
   ・福祉政策(自立支援法など) → 厚生労働省障害保健福祉部
   ・雇用政策 → 厚生労働省高齢・障害者雇用対策部
   ・教育政策 → 文部科学省
   ・交通政策 → 国土交通省
という具合に縦割り行政になっています。
  これに対して、推進本部と推進委員会は、個別政策の立案に直接携わることになります。また、各政策分野の検討のために、推進委員会の下部組織として「各課題別専門員会」が設けられる予定です。

○政策決定への当事者参加
  推進本部は全閣僚で構成しますが、推進委員会は20人程度の民間委員によって構成され、実質的には推進委員会で政策決定されることになります。そして、委員の過半数は障害当事者が選任される予定になっています。
  また、推進委員会の事務局にも、障害当事者などの民間人を登用する予定になっています。この点も、従来の各省庁ごとの審議会(たとえば社保審障害者部会)と異なります。

ただし、旧法案の作成を手伝った参議院法制局の見解によると、推進本部や推進委員会が、個別省庁(厚労省や国交省)の頭越しに政策を立案し、各省庁に実行を命じる権限を持つには、閣議決定ではなくて法律を根拠に推進本部や推進委員会を設置しないといけません。
  しかし、今の連立政権は政権交代したばかりで、衆議院選挙での公約実現のために多くの法律を制定しないといけない状況です。このような中で、推進本部や推進委員会の根拠法案を年明けの通常国会に提出できたとしても、審議と可決に漕ぎ着けられるかどうかは、内閣提出法案全体の中でどれくらいの優先順位に位置づけられるかにかかっています。

■今回の閣議決定の内容(内閣府HPへのリンク)
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/pdf/kettei.pdf

■旧法案における「障がい者制度改革推進本部」の位置づけ(民主党HPへのリンク)
http://www.dpj.or.jp/news/files/090409img.pdf

■民主党マニフェストの関連項目(民主党HPへのリンク)
※26番目の項目で言及されています。
http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2009/index.html

■民主党政策集INDEX2009の関連項目(民主党HPへのリンク)
※「障害者自立支援法を廃止し、新たに障がい者総合福祉法を制定」の項目で言及されています。
http://www.dpj.or.jp/policy/manifesto/seisaku2009/12.html#障害者自立支援法を廃止し、新たに障がい者総合福祉法を制定

■旧法案での関連条文(参議院HPへのリンク)
※第4章で推進本部と推進委員会について規定しています。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/171/meisai/m17107171015.htm

■国連障害者権利条約の日本政府による仮訳(外務省HPへのリンク)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/Gaiko/treaty/shomei_32.html

■国連障害者権利条約の川島聡氏・長瀬修氏による2008年5月30日付仮訳(日本障害フォーラムHPへのリンク)
http://www.normanet.ne.jp/~jdf/shiryo/convention/index.html
 ※介護保障の観点では、特に第19条が重要です。

 

民主党マニフェスト
26.「障害者自立支援法」を廃止して、障がい者福祉制度を抜本的に見直す
【政策目的】
○障がい者等が当たり前に地域で暮らし、地域の一員としてともに生活できる社会をつくる。
【具体策】
○「障害者自立支援法」は廃止し、「制度の谷間」がなく、サービスの利用者負担を応能負担とする障がい者総合福祉法(仮称)を制定する。
わが国の障がい者施策を総合的かつ集中的に改革し、「国連障害者権利条約」の批准に必要な国内法の整備を行うために、内閣に「障がい者制度改革推進本部」を設置する。
【所要額】
400億円程度

 

民主党政策集INDEX2009

障害者自立支援法を廃止し、新たに障がい者総合福祉法を制定

 わが国の障がい者施策を総合的かつ集中的に改革し、国連障害者権利条約の批准に必要な国内法の整備を行うために、内閣に「障がい者制度改革推進本部」を設置します。推進本部には、障がい当事者、有識者を含む委員会を設け、政策立案段階から障がい当事者が参画するようにします。そして、障がい者施策に関するモニタリング機関の設置、障がい者差別を禁止する法制度の構築、障がい者虐待を防止する法制度の確立、政治・選挙への参加の一層の確保、司法に係る手続における支援の拡充、インクルーシブ(共に生き共に学ぶ)教育への転換、所得の保障、移動の自由の権利保障、障がい者への医療支援の見直し、難病対策の法制化など障がい者が権利主体であることを明確にして、自己決定・自己選択の原則が保障されるよう制度改革を立案します。
  障がい者等が当たり前に地域で暮らし、地域の一員として共に生活できる社会を目指します。障害者自立支援法により、利用料の負担増で障がい者の自立した生活が妨げられてしまったことから、福祉施策については、発達障害、高次脳機能障害、難病、内部障害なども対象として制度の谷間をなくすこと、障がい福祉サービスの利用者負担を応能負担とすること、サービス支給決定制度の見直しなどを行い、障害者自立支援法に代わる「障がい者総合福祉法(仮称)」を制定します。
  また、障がい者福祉予算を拡充し、中小企業を含め障がい者雇用を促進します。精神障害者を中心とした社会的入院患者の社会復帰と地域生活の実現に向けて関連法制度の整備等を進めます。

 

旧法案
第四章 障がい者制度改革推進本部
(設置)  
第二十二条  障がい者制度改革を総合的かつ集中的に推進するため、内閣に、障がい者制度改革推進本部(以下「本部」という。)を置く。
(所掌事務)  
第二十三条 本部は、次に掲げる事務をつかさどる。
  一 障がい者制度改革の推進に関する総合調整に関すること。
二 障がい者制度改革推進計画の案の作成及び実施の推進に関すること。
三 障がい者制度改革の総合的かつ集中的な推進のために必要な法律案及び政令案の立案に関すること。
(組織)  
第二十四条 本部は、障がい者制度改革推進本部長、障がい者制度改革推進副本部長及び障がい者制度改革推進本部員をもって組織する。
(障がい者制度改革推進本部長)
第二十五条 本部の長は、障がい者制度改革推進本部長(以下「本部長」という。)とし、内閣総理大臣をもって充てる。
  2 本部長は、本部の事務を総括し、所部の職員を指揮監督する。
(障がい者制度改革推進副本部長)
第二十六条 本部に、障がい者制度改革推進副本部長(以下「副本部長」という。)を置き、国務大臣をもって充てる。
  2 副本部長は、本部長の職務を助ける。
(障がい者制度改革推進本部員)
第二十七条 本部に、障がい者制度改革推進本部員(以下「本部員」という。)を置く。
  2 本部員は、本部長及び副本部長以外のすべての国務大臣をもって充てる。
(障がい者制度改革推進委員会)
第二十八条 本部に、障がい者制度改革推進委員会(以下「委員会」という。)を置く。
  2 委員会は、次に掲げる事務をつかさどる。
   障がい者制度改革推進計画の案に関し、本部長に意見を述べること。
   前号に掲げるもののほか、障がい者制度改革に関する事項について調査審議し、その結果に基づき、本部長に意見を述べること。
  3 委員会は、委員二十人以内で組織する。
  4 委員会の委員は、障がい者、障がい者の福祉に関する事業に従事する者及び学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する。この場合において、委員の構成については、委員会が様々な障がい者の意見を聴き障がい者の実情を踏まえた協議を行うことができることとなるよう、配慮されなければならない。
  5 委員会の委員は、非常勤とする。
(資料の提出その他の協力)
第二十九条 本部(委員会を含む。以下同じ。)は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関、地方公共団体、独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。)及び地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。)の長並びに特殊法人(法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人であって、総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)第四条第十五号の規定の適用を受けるものをいう。)の代表者に対して、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。
  2 本部は、その所掌事務を遂行するために特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。
(本部の事務)
第三十条 本部に関する事務は、内閣府において処理する。
(設置期限)
第三十一条 本部は、その設置の日から起算して五年を経過する日まで置かれるものとする。
(主任の大臣)
第三十二条 本部に係る事項については、内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣は、内閣総理大臣とする。
(政令への委任)
第三十三条 この法律に定めるもののほか、本部に関し必要な事項は、政令で定める。

           
附 則

(施行期日)
1 この法律は、公布の日から施行する。ただし、第四章及び次項の規定は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

 

権利条約
第19条  自立した生活〔生活の自律〕及び地域社会へのインクルージョン この条約の締約国は、障害のあるすべての人に対し、他の者と平等の選択の自由をもって地域社会で生活する平等の権利を認める。締約国は、障害のある人によるこの権利の完全な享有並びに地域社会への障害のある人の完全なインクルージョン及び参加を容易にするための効果的かつ適切な措置をとるものとし、特に次のことを確保する。
  (a) 障害のある人が、他の者との平等を基礎として、居住地及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること、並びに特定の生活様式で生活するよう義務づけられないこと。
  (b) 障害のある人が、地域社会における生活及びインクルージョンを支援するために並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会支援サービス(パーソナル・アシスタンスを含む。)にアクセスすること。
  (c)

一般住民向けの地域社会サービス及び施設〔設備〕が、障害のある人にとって他の者との平等を基礎として利用可能であり、かつ、障害のある人の必要〔ニーズ〕に応ずること。

 

HOMETOP戻る