介護福祉士制度及び社会福祉士制度の在り方に関する意見

 

平成18年12月12日

 

社会保障審議会福祉部会

 

本部会は、1988年(昭和63年)の社会福祉士及び介護福祉士法の施行か

ら現在18年が経過している介護福祉士制度及び社会福祉士制度について、その

後の介護や社会福祉を取り巻く状況の変化を踏まえ、本年9月以降4回にわたっ

て審議を行い、「介護福祉士制度及び社会福祉士制度の在り方に関する意見」を取

りまとめた。

介護福祉士制度については、2006年(平成18年)1月に、厚生労働省社

会・援護局長の私的懇談会として「介護福祉士のあり方及びその養成プロセスの

見直し等に関する検討会」が設置され、8回にわたり外部の有識者によるプレゼ

ンテーションも含め広範囲にわたる検討を行った結果として、7月に報告書が取

りまとめられている。

報告書においては、制度施行後の介護福祉士を取り巻く状況の変化について整

理した上で、求められる介護福祉士像、資格制度の在り方等について提言が行わ

れていることから、本部会としては、これを踏まえつつ、介護福祉士制度の具体

的な在り方について審議を行った。

また、社会福祉士制度については、本部会において、制度施行後の社会福祉士

を取り巻く状況の変化を踏まえつつ、社会福祉士制度の現状と課題について整理

を行った上で、これを解決していくための社会福祉士制度の見直しの方向性につ

いて審議を行った。

本意見書は、介護福祉士制度及び社会福祉士制度の在り方に関わる事項のうち、

特にその養成の在り方を中心として、法律改正も視野に入れつつ、取りまとめを

行ったものである。

介護福祉士、社会福祉士を始めとする福祉人材の確保については、本部会にお

いて引き続き審議を行い、社会福祉法に基づく「社会福祉事業に従事する者の確

保を図るための措置に関する基本的な指針」の見直し等について、検討を行って

いくこととしている。

厚生労働省においては、本部会の意見を踏まえ、制度の見直しが必要な事項に

ついての法律改正案を次期通常国会に提出するなど、改革に早急に取り組み、着

実に実行されたい。

 

2

 

第1 介護福祉士制度の在り方について・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

T 介護福祉士制度の見直しに当たっての基本的視点・・・・・・・・・・ 4

U 求められる介護福祉士像・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

V 介護福祉士の養成の在り方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

資格取得方法の見直しに係る基本的考え方・・・・・・・・・・・・ 7

(1) 介護福祉士の資格取得方法に係る現行体系・・・・・・・・・・・ 7

(2) 介護福祉士の資格取得方法の一元化・・・・・・・・・・・・・・ 7

それぞれの資格取得ルートの在り方・・・・・・・・・・・・・・・ 9

(1) 養成施設ルート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

(2) 実務経験ルート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

(3) 福祉系高校ルート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

実習の在り方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

国家試験の在り方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

専門介護福祉士(仮称)の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・14

その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

(1) 通信課程の取扱い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

(2) 実務経験の取扱い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

(3) その他のルートの取扱い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

(4) 介護現場における医療提供の在り方・・・・・・・・・・・・・・16

実施時期・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

W 介護の担い手の人材確保・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

第2 社会福祉士制度の在り方について・・・・・・・・・・・・・・・・・19

T 社会福祉士制度の現状と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

社会福祉士制度の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

社会福祉士を取り巻く状況の変化・・・・・・・・・・・・・・・・19

 

3

 

社会福祉士に求められる役割・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

社会福祉士に求められる知識及び技術・・・・・・・・・・・・・・21

社会福祉士制度の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

U 社会福祉士の養成の在り方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

社会福祉士の養成の現状と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・22

教育カリキュラムの在り方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

(1) 教育カリキュラムの在り方・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

(2) 実習の在り方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

それぞれの資格取得ルートの在り方・・・・・・・・・・・・・・・26

(1) 福祉系大学等ルート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

(2) 行政職ルート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27

(3) 養成施設ルート(社会福祉主事からのステップアップ)・・・・・27

実施時期・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28

V 社会福祉士の任用・活用の在り方・・・・・・・・・・・・・・・・・29

第3 終わりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31

[参考]

社会保障審議会福祉部会委員名簿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32

社会保障審議会福祉部会開催経過・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33

(参考資料1)介護福祉士制度の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・34

(参考資料2)介護福祉士資格の取得方法の見直しの全体像・・・・・・・・36

(参考資料3)介護福祉士の教育カリキュラムの見直し・・・・・・・・・・37

(参考資料4)社会福祉士制度の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・38

(参考資料5)社会福祉士資格の取得方法の見直しの全体像・・・・・・・・40

 

4

 

第1 介護福祉士制度の在り方について

 

T 介護福祉士制度の見直しに当たっての基本的視点

 

介護福祉士は、介護福祉士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもって

介護を行うこと等を業とする名称独占の国家資格であり、1988年(昭和

63年)の制度施行から現在に至るまで、約54.8万人が資格を取得して

いる。また、介護保険の施設サービスで就労する介護職員の約4割、在宅サ

ービスで就労する介護職員の約2割が介護福祉士となっているなど、今日、

介護福祉士は、介護を支えるマンパワーとして中核的な存在となってきてい

る。

一方、介護福祉士制度の施行から現在に至るまでの間に、高齢者介護や障

害者福祉を取り巻く状況は大きく変わってきている。

2000年(平成12年)からの介護保険制度の施行とその後の見直しの

中で、個室・ユニットケアの特別養護老人ホーム、要介護状態になっても住

み慣れた地域での生活を継続できるような小規模多機能型居宅介護等の地域

密着型サービス拠点など、個別ケアや認知症ケア等の新しいケアモデルに対

応できるサービスの構築が進められてきている。

また、2003年(平成15年)の障害者支援費制度の施行及び2006

年(平成18年)の障害者自立支援法の施行の中で、障害者に対するケアに

おいても、利用者本位のサービス体系への再編が進められる中で、地域生活

支援、就労支援といった側面をより一層重視したケアが求められるようにな

ってきている。

介護福祉士には、このような高齢者及び障害者に対する新しいケアに対応

できるような資質の確保及び向上が求められていると言える。

一方で、総人口が減少し、労働力人口も減少が見込まれる中で、少子高齢

化が急速に進展しており、2015年(平成27年)にはいわゆる「団塊の

世代」がすべて65歳以上となり、2025年(平成37年)には75歳以

上の後期高齢者が現在の約1千万人から約2千万人に倍増するなど、今後と

も高齢者介護のニーズは増大することが見込まれている。

また、障害者に対するサービスにおいても、2003年(平成15年)の

障害者支援費制度の施行以降、利用者が急増してきている。

 

5

 

このような中で、高齢者及び障害者に対する介護の担い手となる人材の確

保は継続する重要課題であり、介護福祉士には、その資質の確保及び向上の

みならず、介護の担い手としての量的確保が求められていると言える。

本部会においては、「高齢者介護や障害者福祉を取り巻く状況の変化を踏

まえつつ、専門資格としての介護福祉士の養成の在り方の側面と、介護の担

い手の人材確保の側面とを如何に調和させていくのか」という観点を基本に

据えつつ、介護福祉士制度の在り方について検討を行った。

 

U 求められる介護福祉士像

 

前述の検討会報告書においては、介護福祉士制度の施行から現在に至るま

での高齢者介護や障害者福祉を取り巻く状況の変化を踏まえ、高齢者及び障

害者に対する新しいケアに対応できるような、これからの介護福祉士の養成

に当たっての目標について、以下の12項目のとおり整理が行われている。

@ 尊厳を支えるケアの実践

A 現場で必要とされる実践的能力

B 自立支援を重視し、これからの介護ニーズ・政策にも対応できる

C 施設・地域(在宅)を通じた汎用性ある能力

D 心理的・社会的支援の重視

E 予防からリハビリテーション、看取りまで、利用者の状態の変化に対

応できる

F 他職種との協働によるチームケア

G 一人でも基本的な対応ができる

H 「個別ケア」の実践

I 利用者・家族、チームに対するコミュニケーション能力や的確な記録・

記述力

J 関連領域の基本的な理解

K 高い倫理性の保持

今後、本部会に限らず、介護福祉士制度の見直しに係る具体的事項につい

て検討を行っていく様々な場においても、この「求められる介護福祉士像」

を実現していくことが最終的な目標であるということを共有した上で、検討

を行っていくべきである。

 

6

 

例えば、介護福祉士養成課程における教育内容等の見直しについては、専

門家・実践者による作業チームにおいて検討が行われている。

具体的には、まずは教育カリキュラムの見直しについて、高等学校卒業者

等が養成施設等において2年以上必要な知識及び技能を学ぶ課程(以下「養

成施設2年課程」という。)における時間数(1,800時間)及びその具体

的な教育内容を基準としつつ、他の課程における時間数やその具体的な教育

内容について検討が行われ、中間的な取りまとめが行われている。

引き続き、それぞれの課程における具体的な教育内容に加え、教員要件、

施設設備基準、実習施設の要件、実習指導者の要件のほか、介護福祉士の養

成課程同士の間での既修得科目の認定や社会福祉士等の他の福祉関係職種の

養成課程との間の単位認定についても検討を行っていくこととされているが、

検討に当たっては、「求められる介護福祉士像」を実現していくことが最終的

な目標であるという姿勢を基本としていくべきである。

なお、教育カリキュラムについては、今回の見直しの後においても、介護

ニーズの変化のほか、新教育カリキュラムを履修した者の資格取得後の就労

状況、介護現場における状況、資格取得後の研修等の受講状況等を踏まえ、

今後、定期的に見直しを行っていくこととするべきである。

また、介護福祉士制度の施行後の高齢者介護や障害者福祉を取り巻く状況

の変化を踏まえ、法律上の介護福祉士の役割、責務等についても、見直しを

行っていくべきである。

例えば、

現行の定義規定の中では「入浴、排せつ、食事」の身体介護が例示され

ているが、実際の介護現場においては心理的・社会的支援の側面も重要で

あり、これを明示すべきではないか

チームとして介護を提供する中での介護福祉士の位置付けや担うべき役

割について、これを明示すべきではないか

業務を行うに当たっては、医師その他の医療関係者との連携を保たなけ

ればならない旨の規定が置かれているが、福祉サービスが普遍化する中で

福祉関係者との連携も重要であり、これを明示すべきではないか

といった指摘がなされているところであり、これを踏まえ、見直しについて

検討を行う必要がある。

 

7

 

V 介護福祉士の養成の在り方

 

資格取得方法の見直しに係る基本的考え方

(1) 介護福祉士の資格取得方法に係る現行体系

現在、介護福祉士の資格取得方法としては、大きく分けて、以下の3つの

ルートがある。

厚生労働大臣が指定する介護福祉士養成施設等において必要な知識及び

技能を修得して資格を取得するルート(以下「養成施設ルート」という。)

3年以上の介護等の業務に関する実務経験を経た後に、国家試験に合格

して資格を取得するルート(以下「実務経験ルート」という。)

福祉系高校を厚生労働大臣が定める教科目及び単位数を修めて卒業した

後に、国家試験に合格して資格を取得するルート(以下「福祉系高校ルー

ト」という。)

1988年(昭和63年)の制度施行から現在に至るまでの資格取得者約

54.8万人のうち、養成施設ルートが約20.6万人で約4割を、実務経

験ルート及び福祉系高校ルートが約34.2万人で約6割を占めている。

介護福祉士資格は名称独占資格であり、介護に係る専門的能力を有する人

材の養成・確保のためには、介護業務に従事する者が介護福祉士の資格を取

得することを通じてその資質を向上させることが求められていることから、

介護福祉士資格の取得方法としては、

就労前に集中的に勉強した上で資格を取得するとして、養成施設ルート・

福祉系高校ルートが、

働きながら勉強して資格を取得することも可能なルートとして、実務経

験ルートが、

それぞれ設けられている。

(2) 介護福祉士の資格取得方法の一元化

介護福祉士の国家資格については、「幅広い利用者に対する基本的な介護

を提供できる能力を有する資格」と位置付けた上で、介護福祉士は「資格を

取得した後も、介護を取り巻く環境の変化や介護技術の進歩等に対応するた

 

8

 

めに、生涯にわたって自己研鑽し、知識・技能を向上させる」という姿を考

えていくべきである。

先に述べたとおり、介護福祉士については、従来重視されてきた入浴、排

せつ、食事等の身体介護のみならず、認知症高齢者に対応できるケアや障害

者の自立支援に対応できるケアといった新しいケアへの対応のほか、他職種

との協働によるチームアプローチによる入所者等の重度化や看取りへの対

応も求められている。

このような中で介護福祉士の資質の確保及び向上を図っていくためには、

資格取得に当たってのそれぞれの教育プロセスにおける教育内容や実務

経験を充実した上で、その水準を統一するとともに、

資格を取得するためにはすべての者は一定の教育プロセスや実務経験を

経た後に国家試験を受験するという形で、

資格取得方法の一元化を図るべきである。

資格取得方法の一元化に関しては、現在ある養成施設ルート、実務経験ル

ート及び福祉系高校ルートの3つのルートのうち、特に福祉系高校ルートの

取扱いが大きな議論となった。

具体的には、大きく分けて、

対人専門職として求められる人間性・倫理性の涵養のためには人生経験

を積むべきであり、高等学校を卒業した後に2年以上の専門教育を受けて、

国家試験を受験する仕組みとするべきとする意見と、

一定水準以上の教育内容が担保されることを前提とすれば、ボランティ

ア等を通じて小さいときから福祉に対して素養を持って育ってきた者等が

高等学校で福祉の途を志し、介護福祉士の資格を取るために努力する福祉

系高校ルートを排除すべきではなく、むしろ年齢や職務経験の観点から見

て多様な人材が介護福祉士となる途が確保されていることは、利用者やそ

の家族の視点からしても意義のあることであるとする意見とがあった。

この点についてさらに議論を深めた結果、

それぞれのルートの教育プロセスにおける教育内容や実務経験について、

科目名や時間数のみならず、教員要件等も含めた教育の内容について同等

の水準が制度的に担保されることを前提として、多様な人材が介護福祉士

として実際の介護現場に入ってくることができるような途を広く開いてお

くことが望ましく、

 

9

 

養成施設ルート、実務経験ルート及び福祉系高校ルートの3つのルート

を残しつつ、すべての者について一定の教育プロセスや実務経験を経た後

に国家試験を受験するという形で一元化を行い、資格全体のレベルアップ

を図ることが適当であるとの意見が大勢であった。

 

それぞれの資格取得ルートの在り方

(1) 養成施設ルート

養成施設ルートについては、養成課程における教育内容を充実した上で、

養成施設卒業者は資格取得するために新たに国家試験を受験する仕組みと

するべきである。

教育内容の充実については、具体的には、養成施設2年課程については、

現行の1,650時間の課程を1,800時間の課程に充実することとし、

その他の課程についても、養成施設2年課程の新しい教育内容を基準としつ

つ、

福祉系大学・社会福祉士一般養成施設・社会福祉士短期養成施設卒業者

等が養成施設等において1年以上必要な知識及び技能を学ぶ課程について

は、現行の900時間の課程を1,080時間程度の課程に、

保育士養成施設卒業者等が養成施設等において1年以上必要な知識及び

技能を学ぶ課程については、現行の930時間の課程を1,155時間程度

の課程に、

それぞれ充実することとするべきである。

その際、介護技術講習会を受講した者には国家試験の実技試験が免除され

る現行の仕組みの中で修得される技能と比較して、同等程度の技能の獲得が

養成課程において担保されているものと考えられるルートについては、実技

試験を免除する取扱いとすることが考えられることから、本ルートについて

は実技試験を免除することとするべきである。

なお、養成施設ルートについては、将来的には養成施設2年課程の教育年

限を3年としていくことが望ましいという意見もあった。

(2) 実務経験ルート

 

10

 

実務経験ルートについては、実務経験に加え、理論的・体系的に必要な知

識及び技能を学ぶ養成課程を経た場合に、国家試験を受験することができる

仕組みとするべきである。

具体的には、現行の3年以上の介護等の業務に関する実務経験に加え、

600時間程度の課程(通常6月以上の課程となり、通信課程の場合にあっ

ては1年以上の課程となる。)を経た場合に、国家試験の受験資格を付与する

仕組みとするべきである。

その際、養成施設ルートの場合と同様の理由から、本ルートについても実

技試験を免除することとするべきである。

また、2006年(平成18年)度から、介護保険制度においては、施設・

在宅を問わず介護職員として介護サービスに従事しようとする者を対象と

した基礎的な職業教育として行われる介護職員基礎研修が導入されている。

介護職員基礎研修課程を修了している者(訪問介護員養成研修課程を修了

した現任者等であって、研修科目等を一部免除して修了している者を含む。)

は、あらかじめ理論的・体系的に必要な知識及び技能を修得した上で、介護

等の業務に関する実務経験を経ることとなるものであることから、2年以上

の実務経験を経た場合に、国家試験の受験資格を付与する仕組みとするべき

である。その際、実技試験を免除する取扱いとはするべきではない。

なお、介護福祉士養成課程における教育カリキュラムの見直しの実施に併

せ、介護職員基礎研修についても、教育時間、教育内容等の在り方について

検討を行っていくべきである。

(3) 福祉系高校ルート

福祉系高校ルートについては、実習時間数を拡充するなど、教育内容を大

幅に充実することとするべきである。

具体的には、現行制度においては、高等学校3年間の課程は1,190時

間の課程、高等学校専攻科2年間の課程は1,155時間の課程とされてい

るが、これを養成施設ルートと同様の1,800時間の課程まで充実すると

ともに、高等学校3年及び専攻科1年の4年間の課程でこれを行うことも認

めるべきである。

 

11

 

また、このうち実習時間数についても、介護現場における実習のほかに校

内での知識及び技能の修得に係る時間も含めて210時間の中で、学校の裁

量で実施することとされている現行の取扱いを改め、養成施設ルートと同等

の450時間の時間数まで充実することとするべきである。

その際、養成施設ルートの場合と同様の理由から、本ルートについても実

技試験を免除することとするべきである。

また、上記のような見直しは教育内容の大幅な充実を求めるものであるこ

とから、現行の1,190時間又は1,155時間の課程を基本的に維持す

ることを時限措置として認め、当該課程を卒業した者は、卒業後に9月以上

の介護等の業務に関する実務経験を経た場合に、国家試験を受験することが

できる途も認めるべきである。その際、実技試験を免除する取扱いとするべ

きではない。

ただし、現に1,190時間又は1,155時間の課程を設けている福祉

系高校に対する上記のような措置は、新制度の導入に伴う経過的な措置であ

り、教育カリキュラム及び資格取得体系についての更なる見直しの検討と併

せ、将来、廃止する方向で検討するべきである。

なお、福祉系高校ルートについては、養成施設ルートにおける教育内容の

充実を踏まえつつ、介護サービスの高度化や地域における生活支援・就労支

援を重視したケアに対応できる教育内容をより確実に担保していくことが

可能な、高等学校3年に専攻科を加えた課程に限定していくべきであるとい

う意見もあった。

また、介護福祉士資格の取得方法の一元化に当たっては、一定水準以上の

教育内容が担保されることが前提であることから、福祉系高校については、

単に教科目及び単位数のみならず、例えば教員要件、教科目の内容等につい

て、養成施設と同等の水準が制度的に担保されるように、新たに基準を課す

とともに、文部科学大臣及び厚生労働大臣の指導監督に服する仕組みとする

べきである。

なお、例えば教員要件については、教育カリキュラムの見直しを踏まえ、

養成施設の教員要件の見直しについて検討し、これを踏まえて福祉系高校の

教員要件についても検討していくこととなるが、その際、高等学校教諭の場

合には教育職員免許の取得が必須とされている等の仕組みの違いを踏まえ、

 

12

 

必要に応じて経過措置を講ずる等の配慮についても検討していくことが必要

である。

具体的な要件については、介護福祉士養成課程における教育内容等の見直

しについて検討する専門家・実践者による作業チームの中で、検討していく

べきである。

 

実習の在り方

実習は、介護現場における実践を通じて学習した知識及び技能の確認を行

うとともに、利用者やその家族との関わりを通じて対人援助におけるコミュ

ニケーションを学べる貴重な場であり、また、実際に介護の現場に参画する

ことで、多職種協働の在り方を学ぶことができるなど、介護福祉士の養成課

程において非常に重要な要素となっているものである。

効果的な実習が実施されるためには、多様な介護現場で実習が行われると

ともに、養成施設等と実習施設とが、それぞれ役割を担って積極的に取り組

んでいくことが求められている。

特に、養成施設等における知識及び技能の教育と実習施設における介護実

践とが連動することにより、単に実習が充実されるのみならず、実習施設と

しての体制整備が進められることで、施設における介護サービスの質の向上

も期待できる。このような養成施設等と実習施設との連携については、養成

施設等と実習施設との一体的な実習の運営体制が確保されている場合に、よ

り効果が発揮されるものと考えられる。

実習施設の確保の観点からも、養成施設等と実習施設との連携を推進する

方策とともに、施設側が率先して実習施設となるような方策についても、検

討していくことが必要である。

なお、実習施設の要件、実習指導者の要件等については、上記のような実

習の意義を踏まえつつ、介護福祉士養成課程における教育内容等の見直しに

ついて検討する専門家・実践者による作業チームの中で、検討していくべき

である。

 

国家試験の在り方

介護福祉士資格について、資格を取得するためにはすべての者は国家試験

 

13

 

を受験するという形で一元化を図っていく以上、介護福祉士の資質の確保及

び向上のためには、教育カリキュラムの見直しだけでなく、そこで修得した

知識及び技能を確認するための国家試験の在り方の見直しが、重要な検討課

題となってくる。

(筆記試験の在り方)

介護福祉士の国家試験は筆記試験と実技試験から構成されているが、筆記

試験については、教育カリキュラムの見直しへの対応に併せ、介護福祉士と

して必要とされる知識及び技能を総合的に評価できるような内容となって

いるかどうかについて、検証を行っていくことが必要である。

国家試験の在り方が養成課程における教育内容を規定してしまう側面が

あることは否定できないことからも、対人援助を行う専門職である介護福祉

士の国家試験の在り方については、

単に知識の暗記を問うだけでなく、介護に関わる理念の理解や実際の状

況に応じた判断力を確認できるような問題としていくべきではないか

介護福祉士として身に付けておく必要のある倫理観や介護に関わる理念

等については、介護福祉士のもっとも基本となる資質であるので、国家試

験の出題内容として位置付けていくべきではないか

介護実践において基本となるような知識を問うものについては、繰り返

し出題することとしてもよいのではないか

といった観点も踏まえつつ、検討を行っていくべきである。

具体的には、出題基準を含む国家試験の在り方についても、介護福祉士養

成課程における教育内容等の見直しについて検討する専門家・実践者による

作業チームの検討事項として、検討を行っていくべきである。

(実技試験の在り方)

また、実技試験については、現在、32時間の介護技術講習を修了した者

については、3回に限り実技試験を免除する措置が講じられている。

介護技術講習会を受講した者には実技試験が免除される現行の仕組みの

中で修得される技能と比較して、同等程度の技能の獲得が養成課程において

担保されているものと考えられるルートについては、実技試験を免除する取

 

14

 

扱いとすることが考えられることから、

養成施設ルート

600時間程度の養成課程を経る場合の実務経験ルート

1,800時間の教育時間を確保した福祉系高校ルート

については、介護技術講習を修了しなくても、実技試験を免除することとす

るべきである。

これにより、介護技術講習の対象者は縮小することとなるが、教育カリキ

ュラムの見直しに併せ、介護技術講習の内容やその在り方についても、検討

していくべきである。

 

専門介護福祉士(仮称)の検討

介護職員の生涯を通じた能力開発とキャリアアップを支援するため、職能

団体等による現任研修等に係る取組が進められている。

介護福祉士の国家資格は、「幅広い利用者に対する基本的な介護を提供で

きる能力を有する資格」と位置付けられるが、さらに重度の認知症や障害等

への対応、管理能力(サービスの質、人的資源、運営管理等)等の分野につ

いて、より専門的対応ができる人材を育成していくことが求められている。

資格取得後の一定の実務経験を前提として、一定の研修を行った上で認定

を行う仕組みとしての専門介護福祉士(仮称)の在り方について、有識者や

関係団体で早急に検討を行っていくべきである。

 

その他

(1) 通信課程の取扱い

現在、養成施設ルートにおいては、教育課程全体に占める実習及び演習の

時間の比重の大きさの観点や当該実習及び演習の時間を実効性のあるもの

として確保する観点から、通信課程は認められておらず、教育カリキュラム

及び資格取得体系の見直しに当たっても、このような基本的考え方は維持す

るべきである。

 

15

 

一方で、介護福祉士資格の取得方法の一元化により、実務経験ルートにお

いては新たに600時間程度の養成課程を経なければならないこととなる

が、これは、現に就労している者が就学する課程であることを踏まえ、働き

つつ学べるように、養成課程としての指定を受けたものに限り、通信課程を

認めることとするべきである。

また、福祉系高校ルートについては、現在、通信課程が認められており、

高等学校専攻科2年間の1,155時間の課程で5校、高等学校3年間の

1,190時間の課程で1校が設置されている。

福祉系高校ルートの通信課程については、現行の1,190時間又は

1,155時間の課程を基本的に維持することを時限措置として認め、当該

課程を卒業した者は、卒業後に9月以上の介護等の業務に関する実務経験を

経た場合に、国家試験を受験することができる途を認めるべきである。その

際、実技試験を免除する取扱いとするべきではない。

ただし、現に1,190時間又は1,155時間の通信課程を設けている

福祉系高校に対する上記のような措置は、新制度の導入に伴う経過的な措置

であり、教育カリキュラム及び資格取得体系についての更なる見直しの検討

と併せ、通信課程の取扱いの在り方についても検討を行うこととするべきで

ある。

(2) 実務経験の取扱い

介護福祉士資格の取得方法の一元化に当たっては、それぞれの教育プロセ

スにおける教育内容や実務経験の水準を統一することが前提であることか

ら、実務経験の取扱いについても、点検を行っていく必要がある。

実務経験の範囲として認められるものは、特別養護老人ホームにおける介

護職員等としての経験等の限定列挙されたものに限られているが、実務経験

として認められる範囲について点検を行っていくほか、ボランティアとして

従事した場合にあっても実務経験の期間として算入される現行の取扱いに

ついても、見直す方向で検討するべきである。

(3) その他のルートの取扱い

これまで述べてきた3つのルート以外にも、介護福祉士資格の取得方法と

 

16

 

しては、介護等に係る技能検定であって厚生労働省令で定めるものに合格し

て資格を取得するルート(以下「技能検定ルート」という。)があるが、

1988年(昭和63年)の制度施行から現在に至るまで、当該技能検定と

して厚生労働省令として定められたものはなく、実績がないことから、この

際、技能検定ルートは廃止するべきである。

また、養成施設ルートにおいては、「厚生労働大臣の指定した養成施設」

のほかに、「文部科学大臣及び厚生労働大臣の指定した学校」又は「厚生労

働大臣の指定した職業能力開発校等」において必要な知識及び技能を修得し

た場合にも資格を取得することができることとされているが、「厚生労働大

臣の指定した職業能力開発校等」については、1988年(昭和63年)の

制度施行から現在に至るまでほとんど実績がなく、また、職業能力開発校等

は養成施設として厚生労働大臣の指定を受けることも可能であることから、

この際、廃止するべきである。

(4) 介護現場における医療提供の在り方

介護福祉士制度の在り方に関する議論に関連して、介護現場における医療

提供の在り方について、介護従事者がたんの吸引、経管栄養の実施等を行う

ことができない現状を含めて検討を行っていくべきではないか、という問題

提起があった。

この問題については、2005年(平成17年)6月の参議院厚生労働委

員会における介護保険法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議におい

て、「介護現場における医療行為の在り方について、介護職員、介護を受ける

当事者、家族及び医師、看護師等の医療関係者等の意見が反映されるような

検討の場を設けること」とされているところである。

また、介護職員による医行為については、例えば、在宅においてたんの吸

引が必要な者に対する介護職員など、医師・看護職員でない者であって家族

ではない者によるたんの吸引については、2003年(平成15年)及び

2005年(平成17年)に、一定の場合には当面のやむを得ない措置とし

て許容される旨の取扱いが示されている。この取扱いについては、その実施

状況や療養環境の整備状況等について把握した上で、見直しについて検討す

ることとされている。

 

17

 

本部会としては、関係部局は、この問題について速やかに検討に着手すべ

きであると考える。

 

実施時期

介護福祉士資格の取得方法の一元化に併せた教育内容の充実については、

養成施設、福祉系高校等における対応に要する時間も考慮しつつも、介護福

祉士の資質の確保及び向上の観点から、できる限り早期に実施することが望

ましい。

また、これまで述べてきたように資格取得体系を見直すこととすれば、

養成施設ルートについては、教育内容の充実後の養成課程を修了した上

で、新たに国家試験を受験することとなるほか、

実務経験ルートについては、新たに600時間程度の養成課程を経ない

と国家試験を受験することができなくなり、

福祉系高校ルートについては、教育内容の充実後の養成課程を修了する

か、新たに9月以上の実務経験を経ないと国家試験を受験することができ

なくなることとなることから、

資格取得体系の見直しについては、既に養成施設に入学している者等の期待

権や教育機会の準備等にも配慮しつつ、実施していくべきである。

W 介護の担い手の人材確保

介護の担い手の人材確保については、介護福祉士の資格を取得している者

のうち、実際には就業していない者も多い現状を踏まえ、総合的な福祉人材

確保対策を講じていくべきであり、引き続き本部会において審議を行い、社

会福祉法に基づく「社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関

する基本的な指針」の見直し等について、検討を行っていくこととするが、

これまでに行われた議論を整理すると、以下のとおりとなる。

介護福祉士資格取得者には、資格取得後のOJTのほか、生涯にわたって

自己研鑽し、介護の専門的な能力の向上に努めることが求められていること

から、生涯を通じた能力開発とキャリアアップへの支援を行っていくことが

重要である。

 

18

 

このため、職能団体等による資格取得後の研修の実施に向けた取組等によ

る体制の整備のほか、介護福祉士を雇用する事業者の側においても、介護福

祉士の研修機会を確保するような積極的な取組が求められる。

また、介護職員の就労状況については、

全産業の平均的な離職率に比べ、離職率が高い

賃金の水準が業務内容に見合った水準になっていないのではないか

規模の小さい事業所においては、福利厚生の充実が困難である

仕事のやりがいや処遇等を理由に転職する者がいる一方、他分野からの

転職も多い

といった特徴が指摘されている。

このため、介護労働者の雇用管理の改善、能力開発等の取組の推進、福利

厚生センターの活用等による福利厚生の充実、都道府県人材センター等によ

る無料職業紹介事業や潜在マンパワーの掘り起こし、介護業務の社会的評価

の充実、優れた人材の確保・育成に重点を置いた経営モデルへの転換等に取

り組んでいくべきである。

さらに、介護保険制度等の中でも介護福祉士を積極的に位置付けていくべ

きであり、介護報酬等において評価を行うことも含め、サービスの質に応じ

た評価の仕組みを構築していく観点から検討を行っていくべきである。

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