支援費制度で何がどう変わったか

-知的障害児者・障害児について-

○自立生活をしている知的障害者

  東京都の多摩地域(23区を除く市町村部)では、これまで身体障害者に対して毎日24時間の介護保障を実現してきた市が数多くあり、その基盤の上で自立生活センターやピープルファーストなど団体の支援を得ながら自立生活をする知的障害者が増えてきています。
  東京都H市では、毎日24時間の介護が必要な利用者に対して、表1のように1日平均14時間のホームヘルパプサービスと、週3日のデイサービスという支援費の支給決定が出ています。
 東京都T市ではやはり毎日24時間介護が必要な利用者に対して、表2のように1日平均8時間のホームヘルプサービスと、週4日のデイサービスという決定になっています。
  この2つの市では措置制度の中で認められていた時間数をほぼそのまま支援費の時間数として決定し、新たにデイサービスの支給決定を行いました。支援費制度でNPO法人もデイサービスの指定を受けることができるようになったため、以前から通っていた場所がデイサービスの指定を受ける形で支援費を利用できるようになりました。
  24時間介護が必要な知的障害者に対しては、市が認めたホームヘルプサービスやデイサービス以外の時間帯については、その利用者を支援している地元の団体がその支援費の収入を使って独自にヘルパーを派遣しています。
  これらの市では数年間に渡って、自立生活をしている当事者と支援団体が協力して市との話し合いを継続しており、その中で下記の内容について一定の合意が得られています。

@実家での親との同居は、その利用者の障害状況から考えて困難であること。(親も同居は難しいと考えていること)
A利用者本人は入所施設や病院での生活を望んでいない、あるいは拒否していること。
B市内のアパートを借りて1人暮らしをしていくことは、市の制度を使い団体が支援を行えば可能であること。
C自立生活をしている知的障害者の中でも、

  • 外で他人(特に子どもや老人)に対して危害を加える行為がある人。
  • 1人で出かけて行方がわからなくなってしまう人。
  • 無銭飲食や万引きなど法に触れる行為を頻繁に行う人。
  • 鍵の付いた車を運転したり、火遊びをするなど危険な行為をする人。

このような利用者に対しては、24時間見守りを含めた何らかの形での「介護」が必要であること。(市と話し合いを行う場合には、24時間の制度を市が認めるかどうかではなく、その利用者が地域での生活を継続していくためには24時間何らかの形での介護が必要であることを説明し、そこから話を進めていくことが重要です。)
上記の2つの市でも、これらのことをケースワーカーや係長、課長などと何度も話し合いを重ねることでヘルパーの時間数を徐々に伸ばしてきています。
 その他自立生活をしている知的障害者でほぼ毎日家事援助や身体介護、又は移動の介護が必要な利用者には、十分とは言えないながらも必要に応じて毎日2時間〜8時間程度(土日通所が無い日は多くて11時間程度)という形で支給決定がなされています。

表1
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表2
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○グループホームで生活している知的障害者

 グループホームで生活する知的障害者に対してヘルパー派遣を認める自治体は支援費制度になってかなり増えているようです。制度的には平成12年度に国が行った要綱改正の中で、在宅の範囲にグループホームも含む形で利用が認められていましたが、実際にはほとんど使われていないのが現状でした。
  支援費制度では全ての利用者に市のケースワーカーが訪問調査に来て、必要であれば1枚の申請書の中でグループホームとホームヘルプサービス(居宅介護)の申請ができるため、利用者にとっては非常に申請がしやすくなったと言えます。自治体の側も特に土日での外出希望に関しては「移動」での決定を出すところが増えました。
  東京都東久留米市の自立生活センターグッドライフが運営を行い、重度知的障害者4人が生活しているグループホームでは、4ヶ所の出身市(4人とも別の市から入居している)との間で、土日に関して実家に帰った日を除いて1日6時間、月最大10日までは家事援助、身体介護、移動の組み合わせでホームヘルプサービスを利用し、マンツーマンでの介護を保障していくことで合意し支援費の決定を得ています。

生活寮に暮らす重度知的障害のDさんの事例


生活寮に暮らす重度知的障害のFさんの事例




○親元で生活している知的障害者

 親元で生活している知的障害者の場合、やはりニーズとしては、通所が休みの土日・祝日の外出介護4時間〜8時間程度と、親の介護負担が大きい知的障害者の場合は、平日通所から帰った後の3時間程度という利用者が多いようです。利用者のニーズに沿って支援費の決定を行っている市では、平日1日3時間(身体介護と家事援助)、土日どちらかで毎週3時間(移動)で月80時間を越える決定が出ている利用者もいます。それに近いところでは平日3時間の週2回(家事援助、身体介護)、土日の移動で月20時間の計約50時間の決定が出ている利用者も少なくありません。

○支援費制度で知的障害者ガイドヘルパーがどこでも利用可能に

 知的障害者の場合、旧制度の中では、ホームヘルプサービスとは別に、大阪府、大阪市、東京都、横浜市、名古屋市、札幌市など大都市部を中心にガイドヘルパー制度を実施している自治体があり、それ以外の自治体では知的障害者が外出時にヘルパー制度を活用することはほとんど行われていませんでした。支援費制度では外出時の介護を「移動」という区分で位置づけたため制度的に全国どこの自治体でも外出時のいわゆる「ガイドヘルパー」が使えるようになりました。これは支援費制度の大きな改正点の1つです。
  東京都内では14年度中に半数以上の区市で知的障害者のガイドヘルパー制度が実施されていたこともあり、支援費制度の中でも月20時間〜40時間程度までを認めている自治体が多数派となっています。

○ 知的障害者に対する支援費決定の問題点

@自立生活をしていて24時間介護の必要な知的障害者に対して、24時間の支給量が認められていないこと。
A支援費の調査の際に、例えば入浴や掃除・洗濯などが自分でできるかできないか?という形でケースワーカーに聞かれるため、「できる」と答えた場合に身体介護や家事援助の時間が極端に少なく決定されてしまう。誰かからの声かけがないと週に1回も入浴しない、入っても丁寧に洗えずすぐ出てしまう、掃除・洗濯などもなかなかやれずに日がたってしまったり、逆に1人でやるとものすごく時間がかかってしまう、このような知的障害者にはやはり声かけをしたり、一緒に家事をしたり、見守っていたりというヘルパーが必要ですが、「できる」か「できない」かという2者択一の質問では圧倒的に多いその間にあるニーズが行政から評価されない結果となっています。
B身体介護を直接体に触れる介護時間として解釈している市が多く、身体介護と家事援助では圧倒的に家事援助の比率が高い決定になっている。(この問題は身体介護1時間4020円、家事援助1530円という極端な単価差の問題でもあり、来年度介護保険制度にそろえる形で家事援助を「生活援助」として1時間約2000円という改正が行われる予定。)
C外出時の「移動」の決定についても、身体介護無しでの決定が圧倒的に多くなっている。外出時のヘルパーの負担はさほど変わらないにもかかわらず、単純に身体障害者には「身体介護有り」、知的障害者には「身体介護無し」という決定が一般化してしまっていること、そこに1時間当たり4020円と1530円という全く不合理な単価差があることは、利用者が事業所を選ぶ際の大きなネックとなっている。
D親が本人の意向とは別に数日〜1週間程度施設で預かるショートステイの利用を希望する場合が多く、行政側も比較的安上がりなショートステイの決定を勧める傾向があるため、全国的にショートステイの決定が相当増加したと考えられる。又支援費制度ではNPO法人などのショートステイ事業への新規参入を排除するため、原則として入所施設に併設するという指定要件とされているため、居宅サービスの中のショートステイは事実上施設サービスでしかなく、又施設に入所するための練習や試しのためにショートステイが利用されているという実態も少なくない。

○児童(18歳未満の身体・知的障害児)の支援費利用

  児童の部分は支援費制度になり最も在宅サービスが増加した部分だと言えます。措置制度の中では、ホームヘルプサービスはその児童の障害が相当重く、親の介護負担が極端に大きい場合以外にはなかなか認められませんでした。又外出時の介護については国の要綱で18歳未満の障害児は対象外となっていたため、外出時のニーズはあっても実際にヘルパー制度は使えませんでした。支援費制度では児童に対しても外出時の「移動」が認められたため、週に1回土日などに公園やプールなどに外出するという申請が多く出され、時間数の多少はあるにしてもほとんどの利用者に対して支給決定が認められたようです。
  又普段はサービスを使っていなくても、いざという時のために受給者証だけは持っておきたいという考えから支援費の申請をした利用者も少なくないようです。
  厚生労働省が4月時点での居宅生活支援費(ホームヘルプ、デイサービス、ショートステイ、グループホーム)の支給決定を受けた利用者が約19万人という数字を発表し、多くの福祉関係者が数字の多さに驚いたようですが、増加した部分の相当数はショートステイの利用や、児童の利用者が占めていると考えられます。
  児童に関しては月10時間〜20時間という決定が多いようですが、東京都内では知的障害児に対して月に40時間〜50時間という決定が出ている例も少なくありません。例としては、平日の学校後の利用では身体介護と家事援助、土日の外出は「移動」というようなパターンになっています。又自閉症の男性など比較的介護ニーズの高い利用者が多いために、知的障害者と比べて「身体介護」や「移動(身体介護有り)」での決定時間が多くなっているのが特徴です。    

○知的障害者や児童に対する事業所の状況

 次に支援費制度でホームヘルプサービスを行う事業所の状況ですが、数の上では全国 で身体約8100ヶ所、知的6200ヶ所、児童5400ヶ所(基準該当事業所を含む)と大幅に増加しましたが、その約8割が介護保険の指定を併せて受けている事業所であり、指定は受けていても実際には派遣できていない事業所も多いと思われます。
  特に知的障害者や児童の中でも最も介護ニーズが高い男性の自閉症の利用者に関しては、女性ヘルパーでの対応が難しいこともあり、実際に派遣を行っている事業所は非常に少ないのが現状です。又事業所としては最大限派遣できるように努力していても、対応できる男性ヘルパーが事業所に1人しかいないというような場合、利用者の希望する日に派遣ができないという事例が多くなっています。

この記事に関するお問い合わせは、以下にどうぞ。
・知的障害者に関する記事部分は 自立生活センター・グットライフ0424-77-8384


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