厚労省、障害福祉施策を大改正案 在宅を義務的経費に
  来年の法改正目指す

 厚生労働省障害保健福祉部は、障害福祉施策の大改正を行います。  精神・知的・身体の3障害のサービスを1つの法律に統合することや、ホームヘルプな ど在宅福祉を現在の施設と同様の義務的経費(注)にするかわりに国の補助は一定までに限定する、支給料の決定を市町村とは独立した「審査会」が行う、ほぼ全ての障害者にケアマネジメントの導入など、大きな改正を含んでいます。
 10月12日の審議会障害部会で、厚生労働省は障害制度改正の厚生労働省案(グランドデザイン)を配布しました。

  現在の制度 改正案
施設経費 施設は義務的経費(かかった費用は必ず国と県が補助しなくてはならない)   施設は義務的経費(かかった費用は必ず国と県が補助しなくてはならない)
在宅経費 在宅は裁量的経費(予算を超える支出があった場合は、国や県は予算までしか補助しなくて良い。国庫補助が満額受けられない市町村がその不足分を負担する) 在宅を義務的経費に(かかった費用は必ず国と県が補助しなくてはならない)
財政負担割合 ホームヘルプなどは国50%県25%市町村25%だが、福祉工場や精神の社会復帰施設などは国50%県50%、更生施設は国50%市町村50%。 全施策を国50%、県25%、市町村25%の負担割合などに統一(国と県は調整交付含む)
ヘルパー時間の国基準 現在は国の基準なし 国の基本的基準を障害に応じて3段階で作る
ヘルパーの時間数決定の方法 時間数決定は市町村の障害福祉担当部署が行う。
障害者は交渉して市町村の制度を伸ばしていくことが可能。
時間数決定は市町村とは独立した「審査会」が行う。(3000市町村で審査会が作られ、医師会や民生委員、学識経験者が委員につくことが想定される)。障害者は交渉ができなくなる
ケアマネジメント ケアマネジメントは制度化されておらず、ヘルパーなどの時間数決定にケアマネジメントは義務化されていない。 ほぼ、全障害者がケアマネジメントを受け、ケアプランを作ってもらう。(自分でケアプランを作ることも可能だが、介護保険の前例のように限りなく0人に近い結果になる恐れも)。ケアプランを沿えてヘルパーなどの申請を行うことが義務付けられる。
費用負担 応能負担=同じサービスを使っても、所得に応じて、支払う自己負担が違う。ヘルパー制度は時間数×所得ごとの自己負担を支払う。ただし、所得に応じて月の上限があり、ヘルパーを長時間使っても費用負担が過大にならない。 応益負担=介護保険同様、所得に関係なく同額を利用した量だけ負担する。ただし、低所得者には減免措置(介護保険と同じ方法。なお、介護保険は非課税世帯は月2万4600円以上は負担しなくて良い。一般世帯は3万7200円が上限)。
ガイドヘルパー制度(移動介護) 移動介護(ガイドヘルパー)は、身体介護や日常生活支援と同じ1類型。指定事業所には1時間4020円〜1530円が入る。利用者は自由に事業所を選べる。24時間の介護精度が出ていない市町村では、障害者団体が、24時間介護の必要な障害者に対して、1時間の移動介護の収入で、5時間の介護を提供して障害者が生きている例も。 ガイドヘルパー制度は(社協など)特定の法人に委託され、その法人が直接実施する。(おそらく、ガイドヘルパーには800円〜1000円程度しか入らないと想定される)。
精神障害者 支援費制度に入っていない 支援費制度に入る

ヘルパー制度が今後まったく伸びていかなくなる

 この案には大きな問題が2つあります。
 1番の問題は、ヘルパー時間は市町村が設置する独立機関の「審査会」が決めるという案です。
 審査会の委員は3000市町村がそれぞれ決めますが、介護保険と同じような人選になります。つまり、医師会や看護協会や大学教 授が過半数になり、ここで決められた時間数は、24時間の介護が必要な1人暮らしの障害者で命にかかわる人が、市町村の部長や課長と交渉しても、決定時間をかえられません。厚生労働省は障害に応じて3段階の標準的な金額を示すとしており、「審査会」はこの水準を参考に時間数を決めていくことになります。3段階の最高水準でも、現在の国庫補助基準(3ランクある)の全身性障害者の月125時間(約20万円)から大きく変わるとは考えられません。
 「審査会」の決定は、たとえば、市長や市議会与党でも変更できません。これでは、最重度の1人暮らしの障害者による時間数を伸ばす交渉は、一切できなくなり、ヘルパー時間数の低い地域は、永久にその水準から変更できなくなります。
 30年以上の1人暮らしなどの全身性障害者の運動により日本の介護制度は改善されてきましたが、この制度が導入されると、今後は制度改善の運動はまったく出来なくなり、日本の介護保障制度水準は低迷固定化します。これは、すべての障害者にとって不幸なことになります。
(厚生省案には、審査会は、10月12日の審議会の資料1の6pの下の表、資料2の7p「審査会の設置等によ る支給決定の透明化」、資料3の7p、21行目「2)利用決定の透明化」の丸2、に出 ています。10月12日の配布資料は、ホームページ参照)
 この案が通ると、これからヘルパー制度の水準の低い市町村に1人暮らしして介護制度 を伸ばす交渉を行う最重度障害者が、生活できなくなります。
 日本のほとんどの地域では、まだ24時間介護保障はもちろん、24時間介護の必要 な1人暮らし障害者に対して、1日12時間保障も実現していません。
  「審査会」は最大の問題点を持っています。

移動介護廃止

2番目の問題としては、 移動介護がなくなり、1つの法人に委託される事業になります。 これでは、支援費前の状況に逆戻りです。つまり、全国の9割の市町村で社協委託になります。時給800円〜1000円くらいのガイドヘルパー制度になるでしょう。 支援費実施前の、独占委託のサービスの悪い暗黒の時代に戻ります。
  24時間の介護が必要な1人暮らしの障害者が、1時間5030円の移動介護(夜間)を5時間の介護に引き伸ばして、ぎりぎり生存している大阪やその他の全国各地の地域(24時間の介護保障が出来ていない地域)では、このままでは、それらの障害者の介護が受けられる時間数が足りなくなり、確実に死人が出ます。
(10月12日の審議会の資料1の12p、資料3の15p(移動介護はB障害者地域生活支援事業に入る)、資 料3の後半の、参考資料の35p、を参照)

ALSなどの包括

  なお、包括問題に関しても記述があります。これは、12月に出る、ホームヘルプの包括案とは別物で、ALSなどに対する全制度を包括して一定額で提供する制度です。現状では包括単価が決まっていないので、なんともいえない 案になっています。ALSや呼吸機利用者や重度の知的・精神障害者が想定された内容になっています。包括の単価が たとえば、月80万円になるとすると、当然、それに入らない脳性まひや頚損や筋ジスなどの24時間介護の必要な1人暮らしの全身性障害者は、この包括単価より低い単価までしか、時間数決定が出ないと思います。審査会委員へも、最初に市町村は当然、委員に対してそう説明をすると思われます。

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