日常生活支援研修交渉報告

メインストリーム協会 佐藤 聡

 メインストリーム協会では、去る5月31日から第1回の日常生活支援研修を開催した。支援費が始まって最初の介助者研修会だったので、開催に至る経過をレポートします。

1. 兵庫県に電話で問い合わせ 4月中旬
 

 4月以降に集めた介助者に、できるだけ早く介助に入ってもらいたい。そこで、5月下旬には第1回目の日常生活支援研修を開催するように準備を始めた。まずは兵庫県に電話で問い合わせ、下記に項目を確認した。

@ 県の日常生活支援研修要綱の有無
A 申請してから決定まで何日かかるのか
B 講師の資格要件
C 必要な書類
D 定員と急な変更

 @は、作っているところなのでまだない(6月20日現在も作成中)。Aは書類さえ整っていれば、一週間程度でも大丈夫。B要綱が出来ていないので今はない。今回は申請してもらって、悪くない限りは認定する。C書式もまだ出来ていない。D定員は特にない。自由に決めていい。決定が出てから変更がある場合は、直前であればFAX、それ以外は郵送で書類を送って欲しい。当日などの変更で、どうしても事前に連絡できない場合は事後でもいい。ということであった。

2. 研修内容の検討
 

 自立生活センター(ILセンター)の介助者研修会なので、できるだけILの理念に沿った内容にしたい。また、一人でも多くの人に受講してもらえるように、受講しやすい日程・カリキュラムにしたい。そこで、研修の骨子考えてみた。

@ ILの理念を伝える。
A 講義内容は、障害者の自立生活を支える介助者育成を目的に構成する。
B 講師は、当事者とメインストリーム協会の職員でまとめる。やもえず外部の人に頼む場合は、ILの理念に理解がある人にする。資格や肩書きでは評価しない。
C 実習は、障害者の自宅に行き、実際の生活の場で介助研修をする。
D 介助者が受講しやすい日程でカリキュラムを組む。20時間のうち、講義と演習の13時間は土日の2日間で行う。残り7時間の実習は、数日に分けて、受講生が都合の良い日を選べるようにする。
E 第2回目以降の研修会は、講義9時間のうち8時間を通信講座にする。
F 「医学等の関連する領域の基礎的な知識に関する講義」の講師は、2回目以降は、看護師ではなく、メインストリーム協会の職員が行う。

上記の項目に沿って、講師・講義内容を組むことにする。申請書類の見本は介護保障協議会にもらい、書類作成に取り掛かった。

3. 書類申請と話し合い 5月14日
 

第1回目研修会は

1日目  講義7時間 5月31日(土)9時〜5時   
2日目  講義と演習6時間 6月1日(日)9時〜5時
3日目  実習7時間+契約1時間半 6月2〜15日の間で、数日に分けて実施する。受講生はこのうちのいずれか都合の良い日を選び、一日受講すれば良い。12時半〜22時。車椅子実習3時間(電車に乗って外出する)、介助契約1時間半、障害者宅での実習4時間。(後日受講生と調整した結果、6月7・13・14日 の3日間で開催した。)

第2回目以降の研修会もこれと同じような日程にし、9月までの合計4回分を申請する。

申請に際して、上記2−B〜Fについて話し合う。

2−B 現在、規定は特にない。申請した内容を見せてもらって検討する。
C 問題ない。実態に即した介助という点で理解できる。
D 問題ない。3日目の日程が決まったら、連絡して欲しい。
E 厚労省は、講義9時間のうち8時間は、通信講座にすることを認めていることを説明し、兵庫県でも取り入れてもらうよう話す。しかし、難しいというだった。いろんな事業所が申請してくるが、県としては一定のレベルを確保したい。通信だと、基準となるテキストがないし、採点する人の要件も決めなければならない。課内でも話し合っているのだが、ちょっと難しい。通信を考えているのであれば、どんなテキストを使うのか見せて欲しい。
F こちらも、厚労省は看護師に限定していないことを伝える。県としては、医師が適任だと考えているが、現実的には確保が難しいので看護師となるだろう。しかし、看護師以外は、講義のテーマからして認めにくい
ということだった。B〜Dに関しては、こちらの考えを理解してもらえた。EとFに関しては、明確な基準は出来ていないようで、あいまいな回答であった。この2点については、第2回目以降の講座の課題として、継続して話し合うことにする。
4. 決定の連絡と一部講師のクレーム
 

5月29日に、電話で第1回研修申請の決定の連絡があった。申請はほぼ認められたが、一部の講師(3人)については、今回は良いが、今後要綱ができてからは認められなくなると伝えらた。

@ 「全身性障害者の疾病、障害等に関する講義」・・・キャリア13年の当事者(頚椎損傷)コーディネーター
A 「家事援助の方法に関する講義」・・・キャリア1年の健常者コーディネーター(無資格)
B 「医学等の関連する領域の基礎的な知識に関する講義」・・・3年間在宅看護を行っている准看護師。

上記の3人が不適格ということであった。理由は@は看護師が望ましい Aはサービス提供責任者と同じく、2級資格+3年の経験を基準としたい。Bは正看護師が望ましい。
 @は、看護師であれば障害者に関する知識が豊富という考えは間違っている。ほとんどの看護士は、障害者に関する知識は乏しく、在宅での生活実態を知らない。この当事者コーディネーターは、自身も障害があり、また13年間もさまざまな障害者の生活支援をしており、全身性障害者の疾病に関しては知識も豊富であると伝える。担当者は、それは理解できるが県としては他の事業所がへんな講師をだしてきたら困るので、一定の基準を作りたい。
 Bは、この准看護師さんは、訪問看護で3年間の経験があり、在宅の障害者のケアについて精通していること伝える。
 このときは、電話で激しく抗議した。担当者は一定の理解を示していたが、基準はつくりたいということを繰り返すのみであった。

5. 2回目の話し合い 6月5日
 

 5月29日の電話で伝えられたことについて、要綱が出来る前に、早急に話し合う必要があると思い、再度話し合いの場を設定してもらった。
 この場で、改めて一人一人の講師について説明し、適任であるということを訴えた。そして、講師の資格要件(例えば、2級ヘルパー+3年の経験者、正看護師)を作るのはかまわないが、その他に「県が適任と認めた者」という項目を作って欲しいと要望する。
  県は、前回の電話の後、少し考えたようで、@の当事者コーディネーターBの准看護師 については、認めることができないか検討しているという。しかし、明確な回答ではなかった。とりあえず、前回申請した4回までの研修会は、講師はそのまま認めるということだった。
  また、通信研修については、今年度は認めにくいということであった。

5. 今後の課題
   研修会は、ILの理念に沿った講師・講義内容を組み、無事に開催することが出来た。受講生26名を集め、わき合い合いとした雰囲気の中、電車を使っての実習や、障害者の自宅での実習など、現実に即した介助実習も取入れ、受講生からも大変好評であった。
  今回、兵庫県の良かった点は、県が要綱を作る前にもかかわらず、弾力的に対応し、開催を認めたということである。近隣の政令指定都市や府県では、いまだに申請を受け付けていないようである。介助者の慢性的な不足は、どこのセンターでも悩みの種である。特に4月になって年度が変わると、学生など辞めていく人は多く、一日も早く新しい介助者を育成しなければ障害者の自立生活が成り立たない。兵庫県がこの点を理解したことは評価できることであった。
  同時に、今後の課題も残った。講師の要件と通信講座である。この問題は、現在まで明確な回答はでていない。肩書きだけで中味の伴わない講師ではなく、受講者にとって本当に的確な講師で開催できるように、今後も継続して交渉していきたい。また、受講生が受けやすくなるように、通信講座も認められるように働きかけてゆきたい。
  兵庫県で認められた点は、ぜひ他の都道府県でも取り入れていただきたい。また、講師要件や通信講座、看護師以外での講師を認めるなど、他の都道府県で取り入れられたところがでたら、是非教えていただき、今後の話し合いの参考とさせていただきたい。
ILの理念を理解し、障害者の自立生活を支える介助者を育成できる講座となるように、今後も働きかけを続けてゆきたい 。

日常生活支援研修(20時間)・移動介護研修(16〜20時間)・3級研修(50時間)などについての解説の続報

 兵庫県では西宮市のメインストリーム協会が交渉し、緊急であるので要綱が出来上がる前から研修実施OKということで、5月31日から日常生活支援の研修を行いました。
 名古屋市では交渉により、わっぱの会やCILekumo、AJUなどが市の要綱が出来上がる前の5月から日常生活支援研修や知的移動介護研修を行っています。後からさかのぼって指定がおりるということで市と合意ができています。
 6月からはこれら地域や大阪で一般事業所も研修を行うことができるように受付が開始されました。東京都はあと少しで受付開始が見込まれています。
 一方で、いまだに制度がかわった事を理解できず、特定の団体(天下り先)にしか研修を行わせない(民間事業所には研修を行わせない)という時代錯誤の西日本の政令指定都市もあります。支援費制度では介護保険と同様にヘルパー研修は民間の事業所が行うのが原則で、都道府県・政令市・中核市はその研修を1回1回指定していくことになります。障害者団体も研修を行うことができ、都道府県等の研修の指定を受けられます。
  関東のある都道府県では、通常は、ヘルパー研修の申請の際に、新規申請は4ヶ月前、2回目からは2ヶ月前に申請が必要ですが、障害者団体の交渉で、新設の日常生活支援と移動介護は2003年度に限っては研修実施の1ヶ月前の指定申請で可能になりそうです。年間いつでも研修を行えるように、たとえば1年52週分の52回分の申請も1度に行え、さらに指定を受けた研修について、日時や会場の変更も研修10日前までの変更届提出で可能です。つまり事実上、10日前に届けを出せば365日いつでも研修を行えることになります。これで、今までどおり無資格介助者の求人をして、面接し、採用とともに研修を行えます。日常生活支援研修(20時間)では2日で研修が終わるので、新人無資格介助者を採用して3日目には介護に入れていくことが可能です。また、3級ヘルパー研修(50時間)の場合は5日で研修が終わるので6日目から身体介護型の介護に入ることができます。

今後は受講者1人で行う新人介助者研修で研修指定をとる

 今後は、いままで自薦ヘルパーを使っていた障害者のグループでは、新人介助者を雇用するたびに、1回の研修で受講者1〜2人で行う日常生活支援研修などを行うことになります。これは、今まで障害者が各自で教育を行っていたことを、制度上の研修として申請するだけで、中身や理念はいままでとほとんど同じ内容で行えます。ただし、障害者だけが講師をするのではなく、自分の団体に雇用した介護福祉士等と共同で教育を行うことになります。(介護福祉士が講師要件になっている都道府県の場合、会場にいる講師のうち1人は要件に会う講師でないといけないため)。その場合でも、研修内容や教育方針は障害者団体で決めた方針通り講師に命じて行えます。なお、部外者の受講者一般公募は行わないで実施できます。テキストは団体独自のものも使える都道府県が多いです。
 日常生活支援研修は、20時間で終了するため、研修の1日目に9時間だけ理念などの講義を事務所や自宅で行い(場所は受講定員を2人程度にすれば、狭い障害者団体事務所や自宅などでも可能)、2日目に、障害者の自宅で11時間の実習を受ければ、終了証発行ができます。3日目からその(無資格で雇った)介助者が支援費の日常生活支援の介護に入れます。

通信研修も可能

 なお、日常生活支援を通信研修のスタイルで行うことも可能です。通信の場合はテキストの審査が厳しくなるのが普通です。独自のテキストで認められない場合は交渉を続けつつ、とりあえず市販の3級ヘルパーテキストとガイドヘルプテキストを使う方法があります。その場合でもサブテキストと課題(問題)を自分の団体の理念で作り(他団体のものをコピーしても可)、東京など、遠方の障害者団体の介護福祉士などに添削講師を依頼(添削方針は研修実施団体の方針にしてもらえば理念は問題ない)すれば、自前の有資格講師はほとんど不要になります。通信研修の場合は、自宅で1週間程度で8時間分の講義部分をレポート提出で行い、障害者団体事務所などでの講義が1時間、障害者自宅での実習が11時間(合計20時間)などの受講方法になります。

 3級研修については介護保険の部署でも3級研修の申請受付をしているので、各障害者団体とも2000年度から3級研修については、介護保険の3級研修申請を行って実施しています。しかし、障害福祉担当部署で受付する方が交渉して障害者の講師などを認めさせやすいので、各都道府県(政令市・中核市含む)に対し早く民間団体の3級研修を受付するように交渉してください。
 なお、講師の基準は各都道府県で自由に決めることができますので、各団体で用意できる講師の範囲で認めるように交渉してください。たとえば、医療関係の知識の講義部分でも厚生労働省は看護士や医師に限定すべきだとは考えていません。関東のある都道府県では日常生活支援では医療の講義も看護士不要で、3年経験の介護福祉士でOKになる予定です。

参考に厚生労働省例の障害ヘルパー研修のカリキュラムを再掲載します

別表第三(第二号関係)  (編注:3級ヘルパー研修)

  科目 時間数 備考
講義 福祉サービスを提供する際の基本的な考え方に関する講義  
障害者福祉及び老人保健福祉に係る制度及びサービス並びに社会保障制度に関する講義  
居宅介護に関する講義 居宅介護従業者の職業倫理に関する講義を行うこと。
障害者及び老人の疾病、障害等に関する講義  
基礎的な介護技術に関する講義  
家事援助の方法に関する講義  
医学等の関連する領域の基礎的な知識に関する講義  
演習 福祉サービスを提供する際の基本的な態度に関する演習  
基礎的な介護技術に関する演習 10  
事例の検討等に関する演習  
合計 50  

別表第五(第四号関係)  (編注:全身性障害者ガイドヘルパー研修)

  科目 時間数 備考
講義 障害者福祉に係る制度及びサービスに関する講義 移動の介護に係る制度及びサービスに関する講義を行うこと。
身体障害者居宅介護等に関する講義 居宅介護従業者の職業倫理に関する講義を行う事。
全身性障害者の疾病、障害等に関する講義  
基礎的な移動の介護に係る技術に関する講義  
障害者の心理に関する講義  
演習 車いすでの移動の介護に係る技術に関する演習  
合計 16  

別表第七(第六号関係)  (編注:日常生活支援研修)

  科目 時間数 備考
講義 身体障害者居宅介護等に関する講義 居宅介護従業者の職業倫理に関する講義を行う事。
  全身性障害者の疾病、障害等に関する講義  
  基礎的な介護技術に関する講義  
  家事援助の方法に関する講義  
  医学等の関連する領域の基礎的な知識に関する講義  
演習 全身性障害者の介護技術に関する演習 11 車いすでの移動の介護に係る技術に関する演習を行う事。
合計 20  


研修申請書の見本をWORDファイルで提供します

  • 日常生活支援の研修の申請書の一式(実技11時間のうち半分程度を実習で行う内容の例です。すべて実習にしたい場合は変えて使ってください)
  • 移動介護研修の申請書の一式
  • 3級研修(通信)の申請書の一式

 パソコンメールで申し込みください web@kaigoseido.net まで

 都道府県に対して研修問題で交渉を行う団体か、障害当事者団体に限ります。団体プロフィールをつけてください。住所、電話、団体プロフィール、交渉予定をつけてお送り下さい。 交渉を行って頂ける団体には無料で提供します。その他は有料です(今月号封筒の注文表を参照)。


支援費で必要な資格の一覧表(確定版)

類型や障害者・児の別 必要な資格(どれか1つでOK)
共通 身体介護・家事援助 介護福祉士・1〜3級ヘルパー
日常生活支援 介護福祉士・1〜3級ヘルパー
日常生活支援研修20h修了者
移動介護 障害者 視覚障害者の移動介護 視覚ガイドヘルパー研修20h修了者
全身性障害者の移動介護 全身性ガイドヘルパー研修16h修了者
日常生活支援研修20h修了者
知的障害者の移動介護 介護福祉士・1〜3級ヘルパー
知的ガイドヘルパー研修19h修了者
障害児 視覚障害児の移動介護 視覚ガイドヘルパー研修20h修了者
全身性障害児の移動介護 全身性ガイドヘルパー研修16h修了者
日常生活支援研修修了者
知的障害児の移動介護 介護福祉士・1〜3級ヘルパー
知的ガイドヘルパー研修20h修了者


*看護師はほとんどの県でそのまま1級ヘルパー扱い   
*介護保険の1〜3級ヘルパーは障害の1〜3級ヘルパー扱い
*14年度までの無資格ヘルパーで都道府県知事の証明が出れば証明の出た種類の介護に入ることが可能

 

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