序章

誰でもできる自立生活

 

(序章 文:益留)

 

介護を必要とする障害者や高齢者の多くは家族と暮らしていますが、家族で介護ができなくなると施設や老人ホームに入所します。理由は、在宅で生活するための介護が得られないからです。しかし最近では、家族カ・ら離れて一人暮らしを選択し、行政の介護制度とボランティアなどを活用して自立生活を始める障害者が増えてきました。全面的に家族の介護に頼っていたり、施設で暮らしている障害者や高齢者が、一人暮らしをすることが夢のような話と思われがちですが、17歳の時事故で頸椎を損傷し2年半の入院後一人暮らしを始めた私も、最初は右も左もわからず、ヘルパーも週1回しか派遣されない中で、なんとか生活してきました。現在は、当時(81年)と比べて行政の介護制度が大幅に良くなっています。これを最大限に活用すれば、誰でも自立生活は可能だといえます。以下、本文の章立てにそって、介護制度と他制度の概略を説明します。

 

ホームヘルプサービス事業

 

この制度は、いわゆるヘルパー制度と呼ばれているもので、唯一全国的に実施されている介護制度だといえます。この「ホームヘルプサービス事業」は以前「家庭奉仕員派遣事業」と呼ばれていました。「家庭奉仕員派遣事業」が「ホームヘルプサービス事業」に改正されたのは、89年に高齢者保健福祉推進10カ年戦略(ゴールドプラン)が策定され、当時わずか3万人だったホームヘルパーを10年間で10万に増やすという計画に基づいたものです。こ

の急速なヘルパーの増員計画にともなって「ホームヘルプサービス事業」では、それまで原則として週18時間とされていた派遣時間の上限がなくなりました。厚生省が要綱から時間制限を撤廃したため、以後自治体が必要と認めれば派遣時間を大幅に増やせるようになり、93年度からは、毎日12時間(週84時間)のヘルパー派遣を行う自治体もでてきました。その後、新ゴールドプランや障害者プランが出され、ヘルパーの目標数値は、高齢者・障害者合わせて、2000年までに20万人となりました。現在、この制度は介護を必要とする障害者や高齢者の自立生活にとって最も重要な制度として活用されています。

 

ガイドヘルパー事業

 

ガイドヘルパーは、肢体障害者と視覚障害者の外出援助のための制度で、多くの自治体では、ホームヘルパーとは別にガイドヘルパーが派遣されています(93年時点で、47都道府県の県庁所在地の内28ヵ所で実施されています)。一例として、大阪府大東市で一人暮らしをしているMさん(全身性障害者)は、ホームヘルパーとガイドヘルパーの派遣をそれぞれ月60時間ずつ受げています。このようにガイドヘルパー事業はホームヘルプ事業に次いで、全国的に普及している制度です。

 

介護人派遣事業

 

この制度は、1974年に東京都が最初に始めた制度です。東京都を例にすると、市区町村役所の福祉事務所で障害者が介護券をもらい、介護に来た人に券を渡す。その券を福祉事務所に持って行くと、介護者に介護料が支払われます。その後各自治体で制度化され、現在では、次のような実施状況となっています。

 

東京都 月240時間

神奈川県 月150時間

埼玉県 月128時間

大阪市 月153時間

神戸市 月120時間

西宮市 月130時間

京都市 月64時間

札幌市 月84時間

静岡市 月197時間

熊本市 月90時間

姫路市・伊丹市・宝塚市・尼崎市・加古川市(兵庫県内)月120時間

ほかたくさん。(全95市区町村程度で実施中)

 

生活保護制度

 

この章では、生活保護の受け方や、受げた場合の他人介護加算、生活費、住宅扶助等を説明しています。他人介護加算は、1,2級の障害者で特別障害者手当を受給していれば、ほぼ100%受げられます。上記の条件を満たしていない人でも、介護が必要だと認められれば受給できます。他人介護加算には3段階あって(以下金額は、96年度生活保護基準額)、1。福祉事務所長承認の一般基準(月7万0050円)2。一般基準で介護料が足りない場合は知事承認(月10万5080円)3。それでも足りなければ大臣承認の特別基準(月18万0700円〜13万2800円の範囲)を申請します。福祉事務所のケースワーカーも一般基準・知事承認までは知っていますが、大臣承認はほとんどのケ一スワーヵ一は知りません。それに申請の仕方も、一般基準は書類的には何も必要ありませんが、知事承認と大臣承認は色々な書類が必要になります。知事承認と大臣承認を受げるのは、手続き的に少し大変ですが、制度的に確立されているものですので順序立てて進めていけば必ず受げられるものです。住宅扶助の額は、車椅子利用者が東京で部屋を借りる場合に、最高6万6700円(96年度全国の基準表は第4章105ぺ一ジに掲載)となっています。このように、生活保護を受げる生活は、「貧しい最低限の生活」という昔の

イメージとは違って豊かになっており、仕事を持っていない障害者や高齢者にとっては重要な制度といえます。

(元は96年9月に出版した当会の本の導入の文章です)

 

 

1章

 

ヘルパー制度は毎日使える介護制度

 

◇1999年にはホームヘルパー20万人体制に

 

 厚生省は95年度から、高齢者対策として、ヘルパーの17万人体制を含む「新ゴールドプラン」をスタートさせ、さらに96年度から「障害者プラン」として7年間で、ヘルパー4万5千人の上乗せを決めました。

 高齢者に対する「新ゴールドプラン」と「障害者プラン」が計画どおりに進んだ場合には、99年度でヘルパーは、約20万人になります。10年前の89年にヘルパーは約3万人だったわけですが、表のように毎年急速に増員が図られています。

 ヘルパー制度といえば、1回2時間、週2回、女性のヘルパーが掃除、洗濯、食事づくりなどの家事をやってくれる程度のものというイメージが日本では定着してきました。事実3年ほど前の新聞社の調査ではヘルパー派遣回数の全国平均は週2回に満たないという結果がでています。

 しかし、厚生省がヘルパーを急速に増員することに伴って、ヘルパー制度の現状は大きく変化しています。もともと、ヘルパー制度の要綱では、業務内容を、介護・家事としているため、あとは、自治体がその気になれば、障害者や高齢者に対して、介護を行うヘルパーを毎日派遣することも可能な状況になっています。

 

 

 

 

◇自治体によっては毎日、12時間のヘルパー派遣が行われている

 

 東京都の東久留米市や田無市では93年度から重度の障害者に対して1日12時間、365日介護のできるヘルパーの派遣を行っています。ヘルパーはもちろんトイレや入浴の介護も行うため、男性の障害者には男性のヘルパーというように同性のヘルパーが派遣されています。(94年、95年と、このようなヘルパー派遣をする市区はどんどんふえて10ヶ所ほどになっています)

 97年からは、九州の熊本市でも毎日14時間のヘルパー派遣を受けられる様になっています。

  このように、ヘルパー制度は現在でも「介護制度」として活用することが可能であり、現在活用しきれていない自治体でも、今後ヘルパーが急速に増えるなかで制度のあり方を大きく変えていくことが求められています。

 

 

 

◇ヘルパーが行う介護内容

 

 厚生省はホームヘルパーの行う仕事を次のように規定しています。

(1)入浴、排せつ、食事等の介護

ア 入浴の介護

イ 排せつの介護

ウ 食事の介護

エ 衣類着脱の介護

オ 身体の清拭、洗髪

カ 通院等の介助

(2)調理、洗濯、掃除等の家事

ア 調理

イ 衣類の洗濯、補修

ウ 住居等の掃除、整理整頓

エ 生活必需品の買い物

(3)生活等に関する相談、助言

 生活、身上、介護に関する相談、助言

(4)外出時における移動の介護

 外出時の移動の介護等外出時の付き添いに関すること。((1)の業務の一環として行われる外出時の付き添いを除く。)

(5)前各号に掲げる便宜に附帯する便宜(1)から(4)に附帯するその他の必要な介護、家事、相談、助言

 

(「身体障害者ホームヘルプサービス運営要綱」より。なお「老人ホームヘルプサービス運営要綱」では上記の仕事内容のうち、(4)外出時における移動の介護という項目が書かれていない以外は同じ内容となっています。)

 

 この規定を読めば、ヘルパー制度が「家事援助制度」ではなく「介護制度」であることわかると思います。現在週2回の家事援助しか受けられていない人が福祉事務所に行って、少なくとも毎日3時間は介護のできるヘルパーが派遣されるようにするためにヘルパー制度に関する詳しい説明を以下のページで行っていきます。

 

 

*ホームヘルプ事業の国の要綱は別冊資料集に載せています。

 

 

 

 

(95年10月号より)

 

町田市も24時間保障に(東京都)

24時間保障の市・区これで11自治体に  

 

 東京都の町田市で、自立生活センターの当事者スタッフが交渉を行った結果、毎日12時間の自薦登録ヘルパーが実現した。他の2制度と合わせれば、24時間の介護制度が使えるようになった(都内11番目)。詳しい経過は右ページの記事参照→。 

 

 町田市の介護制度(一人暮らしの生活保護受給の全身性障害者が受けられる制度)

 

 

 

 

 介護制度名

 

時間数

 

どこの制度か

 

費用負担率

 

自薦登録ヘルパー

(ホームヘルプ事業)

 

毎日12時間

 

 

実施主体は市

 

 

国50%・都25%

市25%

 

全身性障害者介護人派遣

 

毎日8時間

 

都の制度

国50%・都25%

・市25%

生活保護他人介護料

特別基準大臣承認

毎日4時間

(全国にある)

国の制度

 

国75%・市25%

 

            合計24時間/日

 

 

 

 ※他の24時間保障の市区もおおむねこのような制度構成か、または金額ベースでこの程度の制度が受けられる

 

 

◆3つの制度とも、全身性障害者が選んだ介護者(ヘルパー)に公的な費用が出る。

★東京都の『介護人派遣事業』は、70年代に交渉し、制度化されたもの。東京都全域で受けられる。その後毎年交渉して、制度を伸ばしている。98年1月に、時間給が国のヘルパー単価と同じになった(毎日8時間はそのまま)。

★生活保護の他人介護料大臣承認も、70年代に交渉して制度化させたもの。全国で受けられ、基本的に申請すればとれる制度。申請書類は当会と厚生省の相談で「これだけは記入しないといけないもの」を明確にして決まったものを。当会が「申請書セット」として作成している。厚生省と毎年相談済なので、このまま使える。市町村担当者は制度の仕組みを知らないので、申請書セットを取り寄せ、当会に相談しながら申請しないと制度を取るのは難しい。

 

 

 

 

町田市のヘルパー派遣が毎日12時間に

 

                    町田ヒューマンネットワーク・田村和久

 

 町田市は東京の外れ、神奈川県とよく間違われます。福祉が進んでいると言われる地域ですが、在住している私に言わせれば「進んでいた」という表現が正しい気がします。

そんな町田市でのヘルパー派遣は、暗黙に週18時間の上限がありました。その上限を撤廃させ、行政に24時間介助の必要性を起こすことにしました。

 

 まず介護制度相談センターの通信を読み、ある程度理解が進んだところで、小平市にある事務所に話を聞きに行くことにしました。センター事務所ではヘルパー派遣の上限が週18時間ではないことが書かれている「ホームヘルプ事業運営の手引き」のコピーをもらうこと、他地域でのヘルパーなど介助制度の状況を知ることなどを中心に話を聞きました。電話では話せないことも聞け、たいへん役に立つ知識が得られました。

 実際に市役所にヘルパー派遣時間アップの要求が出ていなくては話にならないので、まずは要求を出しに行くことにしました。この際にもう一人、介助が明らかに必要だと思われる人が加わり、二人で地域担当のワーカーに話をしに行きました。ワーカーは課長を呼んできて課長を交えての話になりました。

 こちら側から24時間介助の必要性、介助が不安定になることは生死に関わる問題であること、現状は介助者に無理をさせ介助を埋めていること、介助者は自分で集められるのでヘルパー券さえ出せれば登録ヘルパーとしてできること等を話しました。そして、週7日、1日12時間にヘルパー券を増やして欲しいと要望を出しました。課長から、話は承ったので1週間後に答えを出すといわれ、その日は終わりました。

 そして1週間後、OKの連絡がきました。要望は全面的に受けいられ、ヘルパー券を増やし始める日にちもこちらで決めてよいというものでした。あまりあっさり受け入れられたので少々気が抜けてしまいました。

 

 現在までの状況は、私たち2人のほかには、1日12時間までヘルパー券を増やした人はいません。チャレンジ中なのですが、生活保護の介護加算の大臣承認、ヘルパー1日12時間、脳性マヒ者等介護人派遣事業を使い24時間介助者を使う予定の人を支援しているところです。この例をモデルに24時間介助の必要な人でも市内で生活でき、その相談にのっていける状態を作って行きたいと思っています。

 

 

 

97年度 自薦登録ヘルパー時間数

       (最新版)

東京             (長時間の所のみ)

 これらはすべて、在住の全身性障害者が交渉してつくり上げてきた制度です。ひとつとして、勝手に制度ができた市・区はありません。下記の市・区は、当会の会員である一人暮らしの全身性障害者が住んでいて継続的に行政(区・市)と交渉している地域です(下表は一人暮らしの24時間要介護の障害者に対する時間数です)。

 

東京の登録ヘルパー方式、94年度〜97年度への変化の状況

市・区名

94年度

95年度

96年度

97年度

(週あたり)

(1日当り)

田無市

週105時間

週105時間

週105時間

週105時間

15時間

東久留米市

週84時間

週84時間

週84時間

週112時間

16時間

小平市

週18時間

週63時間

週84時間

週84時間

12時間

小金井市

週24時間

週24時間

週84時間

週84時間

12時間

保谷市

週18時間

週18時間

週72時間

週112時間

16時間

東村山市

週18時間

週18時間

週84時間

週84時間

12時間

清瀬市

なし

週84時間

週84時間

週84時間

12時間

町田市

週18時間

週84時間

週84時間

週84時間

12時間

立川市(注)

週63時間

週67時間

週67時間

週67時間

9.6時間

日野市

週63時間

週84時間

週84時間

週84時間

12時間

大田区

週18時間

週84時間

週84時間

週84時間

12時間

板橋区

週42時間

週84時間

週84時間

週84時間

12時間

N区(注2)

週36時間

週36時間

週36時間

週36時間

5.1時間

K区

週21時間

週21時間

週21時間

週63時間

 9時間

八王子市

なし

なし

週18時間

週84時間

12時間

    (*週84時間=毎日12時間)

(間い合わせは当会・制度係(電話番号は裏表紙に掲載)へ。くわしい説明ができます。各市・区への直接間い合わせはさけて下さい。 行政交渉でこれらの市に問い合わせを自分の市の職員からしてもらう必要のある場合は、事前に根回ししますので、必ず当会・制度係まで連絡ください。地元の団体の要望で、問い合わせをしてはいけない市もあります。)

(注)立川市は夜間単価で、時間単価が高いので、週84時間の市の受け取り額と同等の保障がある。(注2)N区は他に独自制度が56時間分ある。

 

 

全国(東京以外)                 (週40時間以上の市)

自薦登録ヘルパーと自薦のガイドヘルパー

(下表は一人暮らしの24時間要介護の障害者に対する時間数です)

地域・市の名前

96年度

97年度

(週当たり)

(1日当たり)

九州 熊本市

週40時間

週98時間

14時間

四国のM市 (ガイドヘルパーと合わせて)

週40時間

週84時間

12時間

四国のT市 (ガイドヘルパーと合わせて)  NEW

なし

週56時間

 8時間

大阪府I市

週68時間

週68時間

9.7時間

山陰のY市 (ガイドヘルパーと合わせて)

週42時間

週42時間

  6時間

北関東のU市 (ガイドヘルパーと合わせて)

週40時間

週40時間

5.7時間

南関東のR市 (ガイドヘルパーと合わせて)  NEW

週14時間

週52時間

7.4時間

北海道のS市 (ガイドヘルパーと合わせて)  NEW

週14時間

週40時間

5.7時間

(注)自薦ができるヘルパーとガイドヘルパーの時間数の合計。

四国のM市は、自薦ヘルパー1日4時間+ガイド8時間の合計時間数

山陰のY市は、自薦ヘルパー1日4時間+ガイド2時間の合計時間数

北関東のU市はガイドのみ。南関東のR市は自薦ヘルパー1日5時間+ガイド2.4時間の合計時間数

 

(問い合わせは当会・制度係(電話番号は裏表紙に掲載)へ。くわしい説明ができます。各市・区への直接問い合わせはさけて下さい。 行政交渉でこれらの市に問い合わせを自分の市の職員からしてもらう必要のある場合は、事前に根回ししますので、必ず当会・制度係まで連絡ください。地元の団体の要望で、問い合わせをしてはいけない市もあります。)

 

 

 

 

 

 

 

ヘルパー制度の歴史

 

 

1.家庭奉仕員派遣事業

 

 ホームヘルプサービス事業の前身である家庭奉仕員派遣事業は1962年に「家庭奉仕員活動費」として初めて予算化され、1963年老人福祉法に明文化されました。

 障害者に対する制度は1967年にスタートしています。当時は、派遣対象世帯を原則として非課税世帯に限定していたため派遣世帯も限られており、ヘルパーもほとんど公務員のヘルパーのみが派遣されていましたが、……

 1972年改正で、@派遣決定の部分を除き、社協等への事業委託をしてもよい、A特例的に、ヘルパーは非常勤の身分でもよい、ということが明記され、事業委託・非常勤ヘルパーに道が開かれました。

 1982年9月に厚生省は大幅な制度改正を行い、@必要な世帯に対して派遣回数・時間数の増を図る A利用者の多様なニーズに対応するため家庭奉仕員の勤務態勢の弾力化(パート・時間給ヘルパーの導入)を図る B所得税課税世帯に対しても有料で派遣できるものとする という趣旨の通知を出します。この通知により、家庭奉仕員派遣事業は、限られたごく一部の人に対する制度から、家事・介護の援助を必要とする世帯への一般的な制度となります。この通知に基づいて、市町村は、事業委託や、時間給のヘルパー確保などさまざまな方法を活用して人材の確保に努めることになります。

 なお、この通知のなかで、派遣回数、時間数の増を目的として「家庭奉仕員の派遣は原則として1日4時間、1週6日間、1週当たり延べ18時間を上限としてサービス量を調整し、これに対応できる派遣体制の整備を行うようにすること。」という一文が書かれたため、これが都道府県、市町村レベルでは「週18時間枠」として実質的上限として機能することになります。

 

2.ホームヘルプサービス事業

 

 1990年〜1999年までの10年間でヘルパーの数を約3万人から10万人に増やす「ゴールドプラン」(高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略)の策定を受けて、厚生省は90年12月、「家庭奉仕員派遣事業」を廃止し、「ホームヘルプサービス事業」として位置付け直し、派遣時間数の上限に関わる規定を無くします。

 92年3月厚生省の老人福祉計画課は、それまでのヘルパー制度を全面的に見直すよう「ホームヘルプ事業運営の手引き」を出し、次のような強い調子で都道府県・市町村に対して制度の改善を求めました。

 「ホームヘルパーの活動状況については、福祉マップ等の現時点でのデータによると、利用者1人当たり全国平均では、週1回、2〜3時間のサービス提供となっており、対象者のニーズに必ずしも十分応えたものとなっていない。」「このような結果となっている主要な原因の1つとして、市町村がサービスの提供に際し、サービス回数、時間を対象者や家庭の状態に関わらず一律に定めているなど、ニーズがあるにもかかわらず制限を行っていることである。いたずらに画一的なサービスの決定を行うことは、適当ではない。このような要綱等を定めている市町村は、早急に改正する必要がある。」

 自治体では、その1年後の93年3月にようやく東京都が「週18時間枠」の撤廃を決め、区市町村への通知を行います。これにより、93年度田無市や、東久留米市では1日12時間、週84時間と上限が一挙に拡大されました。95年度には10市区以上が週18時間をこえるヘルパー派遣を行っています。

 

3.最近のヘルパーをめぐる動き

 

 1995年度から「ゴールドプラン」は「新ゴールドプラン」となり、99年度までのヘルパーの目標数値も10万人から17万人に改められました。厚生省はさらに95年度に24時間巡回型のヘルパーを予算化しました。

 

 

 

 

 

非常勤や委託ヘルパーなら派遣時間数は大幅に増やせる

 

 

 現在はホームヘルパーといっても、その雇用形態は様々です。ヘルパー制度の歴史のところで書いたように、72年に、社協等への事業委託・非常勤ヘルパーが認められ、さらに、82年には、パート・時間給ヘルパーが認められたことで、現在まで、派遣対象世帯・派遣時間・派遣回数を増やすため、さまざまな形でヘルパーを確保する流れが作られてきました。

 平成5年度末現在全国のホームヘルパー設置市町村(3,249市町村)のうち、2,495市町村が社会福祉協議会等に、ホームヘルプサービス事業の実施を委託しており、その委託団体に所属する、ホームヘルパー数は、ホームヘルパー総数の84.4%にのぼっています。

 実際に、公務員のヘルパーを増やすことは市町村にとってはたいへんなことです。職員の1人当たりの人件費は諸経費も含めれば600〜1000万にもなりますが、厚生省がホームヘルパーの補助金を支出する職員1人当たりの基準額は95年度で334万円です。市町村は厚生省からその2分の1の167万円、都道府県から83万円の計250万円を得るだけなのです。このため福祉部の担当者は国と都道府県から4分の3の補助が出るといっても、実際にかかる人件費の3分の1程度にしかならないと嘆くことになります。

 一方、市町村や委託先の非常勤ヘルパーに関して厚生省の基準額は1時間当たり1380円で、この部分はそのまま国から2分の1、都道府県から4分の1という補助が得られるため、市町村の負担は1時間当たり350円で済みます。

 公務員のヘルパーではどうしても、1回2時間、週2回ぐらいしか平均的に全世帯を回ることは出来ませんが、市町村や委託先の登録者で、もし市町村が1000万円の予算を負担すれば年間約29000時間も派遣時間が増やせる計算になります。これは、1日3時間×365日×26人分にもなる数字です。

 派遣の時間数に関しても、公務員の場合どうしても朝9時〜夕方5時までという勤務時間に縛られる形になりますが、非常勤ヘルパーならば、早朝、夜間も含めて時給1380円で募集すればかなり人材の確保が可能になります。

 しかし現実に多くの市町村はヘルパーの増員に非常に消極的なため、市町村登録や社協、特別養護老人ホーム、福祉公社等への委託が行われているにもかかわらず、ヘルパーとして確保されている人材はほとんどが40歳以上の主婦層に限られています。そこで、私達はヘルパーを必要としている障害者や高齢者が自分でヘルパーを見つけてくるという「自薦登録ヘルパー方式」を進めています。

 

 

自薦登録ヘルパーってなんだ?

 

 

 自薦登録ヘルパーとは何でしょうか。東京以外の人には大変分かりにくいものなのでもう一度説明します。そもそもできたばかりの日本のホームヘルパー制度とは、公務員であるヘルパーが、非課税世帯のみに行政の都合に合わせて勝手に派遣されてくるものでした。このころに採用されたヘルパー形態は、今でも地方の市町村に残っており、例えば人口2000人の村にヘルパー1人だけ、待遇は村の正職員でもう50歳代、給与待遇は部長級で村は年800万円もかけているといったものです。これではヘルパーを増やそうにもなかなか増やせません。

 次に厚生省は、ヘルパーを増やすため、社会福祉協議会や(東京なら)家政婦協会に委託されたヘルパー制度も認めました。地方では、社協ヘルパーは公務員ヘルパーに準じた派遣形態をとった所が多かったのですが、東京の『家政婦協会への委託ヘルパー方式』は、市が介護券を障害者に渡し、家政婦協会のヘルパーが来たら時間数に応じて券を渡し、ヘルパーは券を協会でお金に換えるという方式を取りました。

 当会の都内の中心人物の住んでいる東京都内の市・区では、行政交渉により、この家政婦協会に自分たちの介護人(男性も含む)を登録させ、特定の障害者専用のヘルパーとして、厚生省の決めた上限である週18時間まで派遣させることに成功しました。国のヘルパー制度を、(自治体独自の)介護人派遣制度と同じような「当事者が介護人を選ぶ」制度として使うことができたのです。これを『自薦登録ヘルパー方式』と呼んでいます。

 自薦登録ヘルパー方式の利点は、当事者の選んだ人が介護人として派遣されるだけでなく、派遣時間数が簡単にアップできるという点にあります。厚生省は91年、要綱でそれまでのヘルパー派遣上限週18時間を撤廃しました。92年には、それをもとに、各自治体への指導書である『ホームヘルプ事業運営の手引き』を出し、その中で、「派遣時間数の制限を設けている自治体は早急に改正を」と明記しました。これによって東京などでは、93年から24時間介護の必要な人には、毎日十数時間のホームヘルパー派遣が実現しました。これは、当事者が人材を探しヘルパーとして登録するからできたことであり、公務員ヘルパーでは定員を20倍にするなど、10年以上かかる作業を経なければできないことです。

 当会はさらに、登録ヘルパー方式を全国に広めるために、厚生省と交渉に入りました。厚生省の更生課予算係長は、92年の交渉で「それは大変いいアイデアだ。実施に向けての学習会をしましょう」といい、連続学習会が始まりました。

 その後、課長補佐も交えた数回の交渉で、更生課は「現状の公務員ヘルパーや社協の正職員ヘルパーでは重度障害者に対する身体介護は満足に行えない」という認識になりました。

 94年3月には、全国主管課長会議で「(これからの事態を解決するには)いわゆる自薦登録ヘルパー方式も、検討に値する(つまり自薦登録ヘルパー方式の奨励)」という意味の指示事項を発表しました。主管課長会議資料に4ページにわたって、その説明を盛り込み、全国都道府県と指定都市の課長に説明がおこなわれました。(95年の主管課長会議資料(全57ページ)でも、この部分は(37ページから)独立して再掲載されています。95年11月の係長ブロック会議では、厚生省は、さらにふみこんで、「積極的に図られたい」と書き、この方式を推薦する立場になっています。

 

 登録ヘルパー制度化交渉を行っている団体、これから行いたい団体は当会に資料請求してください。必要なら交渉の手順等についてのアドバイスもします。

 次ページに、指示文書の登録ヘルパーについて書いた部分を載せます(一部分)。介護人派遣事業の交渉にも使えます。

 

 

 

 

厚生省

平成6年度 社会・援護局主管課長会議指示事項より

 

4 サービスの内容等について

 @ ヘルパーが提供するサービスの内容をめぐって、利用者から次のような種々の

  問題提起がなされている。

   ア 日常生活のニーズに対応したサービスが受けられない。(量の不足)

   イ 身体障害者の身体介護のための体力や技術に欠ける者が派遣される。

   ウ 障害の特性についての理解に欠ける者が派遣される。

   エ コミュニケーションの手段に欠けるため十分な意思の疎通ができない。

   オ 同性ヘルパーを派遣してほしい。

 

 A 今後の事業運営に当たっては、こうした利用者の深刻な問題を踏まえその改善

  に努める必要があるが、その際、次のような視点が重要である。

          (中略)

   

ウ 重度の身体障害者の中には、身体介護やコミュニケーションに当たって特別

    な配慮を必要とする者が少なくない。こうした者への派遣決定に当たっては、

    利用者の個別の事情を十分考慮し適任者の派遣を行うように努めることは当然

    であるが、こうした対応が可能となるよう実施体制について十分な検討が必要

    であること。この際、身体障害者の身体介護やコミュニケーションの手段につ

    いて経験や能力を既に有している者をヘルパーとして確保するような方策も検

    討に値すると考えられる。

 

 

平成7年11月     厚生省

全国身体障害者福祉担当係長ブロック会議資料より

 

4.身体障害者ホームヘルパー事業

  (4) ホームヘルパーの確保に当たっては、介護福祉士等の有資格者の確保に努める

   とともに、障害の特性に対する理解や利用者との間におけるコミュニケーション

   を必要とすることから、過去において障害者の介護経験を有する者の活用も積極

   的に図られたい。

 

 

これを使った交渉の方法は、障害者自立生活・介護制度相談センターの資料集(下記)をごらんください。

 

 

障害者自立生活・介護制度相談センターの紹介

障害者自立生活・介護制度相談センター(事務所:〒188-0011 東京都田無市本町5−6−20 第2和光ビル2F)では、自立生活をしている重度障害者の利用できる全国の介護制度を紹介したり、各市町村で交渉して介助の制度を作る方法を情報提供しています。

会員になれば、フリーダイヤルでの相談や資料請求ができます。最新情報は、月刊の介護制度の情報誌で提供しています。(自立を目指している全身性障害者・自立生活をしている全身性障害者・介護者などが会員になっています)。

九州で毎日24時間介護保障、四国で16時間介護保障(共に滞在型)が実現するなど、成果が全国に広がっています。(くわしくはホームページwww.top.or.jp/~ppをご覧下さい)

 

 

見本誌は無料です。「見本誌請求」とFAXまたはTELでご請求ください。(フリーダイヤル)0077−2308−3493へ。

 

@月刊誌の定期購読は 月250円。「月刊 全国障害者介護制度情報」を送ります。

A定期購読に加え、フリーダイヤルでの制度相談も必要な方は、「相談会員サービス」月500円を申し込みください。

 

上記、@A申込みは、障害者自立生活・介護制度相談センター 発送係へ。

電話/FAX 0077−2308−3493(通話料無料)

 申込みは、なるべくFAXで(電話は月〜金の11時〜17時)

FAXには、「@定期購読か正会員か、A郵便番号、B住所、C名前、D障害名、E電話、FFAX、G資料集冊子を注文するか」を記入してください。(また、自立生活している方(予定者も)やその交渉支援者(予定者も)には資料集1巻を無料サービスしますので、該当する方はそのこともご記入ください。)

入金方法 新規入会/購読される方には、最新号会員版と郵便振込用紙をお送りしますので、内容を見てから、年度末(3月)までの月数×250円(正会員は×500円)を振り込みください。内容に不満の場合、料金は不要です。

例えば、2月に相談会員入会ならば、1000円でOK!

 

 

 

今がチャンス!今、定期購読か正会員を申し込めば、@介護制度の資料本(資料集1巻)を無料で差し上げます。Aさらに、インターネットのホームページを無料でお作りいたします(個人でも団体のものでもOK。原稿をワープロDISKで送ってください)。

 

インターネット www.top.or.jp/〜pp でも、情報提供しています。

 

障害者自立生活・介護制度相談センター 制度係スタッフ

・益留俊樹・川元恭子・大野直之・末永弘 

制度係フリーダイヤル 0077−2329−8610

 

 

 

Howto介護保障 別冊資料 

1巻 自薦登録方式のホームヘルプサービス事業

−第2版

262ページ 1冊1000円(+送料)  好評発売中 申込みは以下へ

この本の中身を紹介↓

第1章 全国各地の自薦登録ヘルパー

全国の一覧表・熊本市・東久留米市・保谷市・大阪府I市・四国のM市・千葉県・埼玉県の通知・兵庫県A市・

第2章 あなたの市町村で自薦登録の方式を始める方法

自薦登録ヘルパー方式のすすめ・自薦方式に変えていく方法 その1・その2・介護人派遣事業と自薦登録ヘルパーの違い

第3章 海外の介護制度 パーソナルヘルパー方式

   デンマークオーフスの制度・スウエーデンの制度・エーバルト・クロー氏講演記録

第4章 ヘルパー制度 その他いろいろ

   費用の保障で人の保障が可能・福岡県の状況・市役所のしくみ・厚生省の情報

資料1 自治体資料(東京都世田谷区)

資料2 厚生省の指示文書・要綱

6年度・8年度・9年度厚生省主管課長会議資料(自薦登録ヘルパーについて書かれた指示文書)・厚生省ホームヘルプ事業運営の手引き・厚生省ホームヘルプサービス事業の要綱ほか  全262ページ

 

Howto介護保障 別冊資料 

2巻 全国各地の全身性障害者介護人派遣事業

−第2版

210ページ 1冊1000円(+送料)  好評発売中 申込みは以下へ

この本の中身を紹介↓

 全国の介護人派遣事業一覧表(最新版)・全国各地の全介護人派遣事業の最新情報と要綱や交渉経過など資料が満載。以下の全自治体の資料があります。

1静岡市・2東京都・3大阪市・4神奈川県・5熊本市・6兵庫県 西宮市・7宝塚市・8姫路市・9尼崎市・10神戸市・11岡山市・12宮城県と仙台市・13滋賀県・14新潟市・15広島市・16札幌市・17埼玉県・18来年度開始の4市

 ほかに、介護者の雇い方・介護人派遣事業を使ってCILの介護派遣サービスを行う・介護者とのトラブル解決法・厚生省の情報 などなど情報満載  全210ページ

 

Howto介護保障 別冊資料 

3巻 全国各地のガイドヘルパー事業

86ページ 1冊500円(+送料)  好評発売中 申込みは以下へ

全身性障害者のガイドヘルパー制度は現在3300市町村の1割程度の市町村で実施されています。このうち、特に利用可能時間数の多い(月120時間以上)数市についての解説を掲載。また、これから制度を作る市町村が要綱を作る場合の参考になる要綱事例などを掲載。厚生省の指示文書も掲載。

 

お申込みは 障害者自立生活・介護制度相談センター・発送係へ。 TEL/FAX 0077−2308−3493(通話料無料)。ご注文はなるべくFAXで(品名、送り先を記入)。料金は後払い。郵便振込用紙を同封します。内容に不満の場合、料金不要です。TELは平日11時〜17時に受付。

 

 

 (編集:大野より)

 清家さんに文章を依頼されましたが、96年に出版したものを大部分使ってしまいました。手抜きしてごめんなさい。広告が多くて商業っぽく見えるかもしれませんが、会費や購読料ではぜんぜん赤字(ほかから助成金などをかき集めて運営しています)のNPOです。皆さんよろしくお願いします。制度に不満のある方、一緒に日本を変えませんか?(自分の自治体と話し合いをはじめるノウハウや方法を提供しています。解約自由ですので、ぜひ定期購読か相談会員に申し込みください。電子媒体がいいという方は連絡下さい。)pp@yyy.or.jp(担当:大野)

 

 ホームページへ