ヘルパーの行為が医行為か医行為じゃないかの厚労省と障害者団体の交渉の歴史まとめ

 

ヘルパーの行う行為は以下の3つに分かれる

1 爪切りや市販の浣腸などの簡単な行為=医行為ではないとはっきり通知された行為

2 てき便・導尿・アンビューなど、医療的ケア(医療類似行為)=法のグレーゾーン(通知されてない)

3 吸引など通知等に書かれている行為=医行為 (15年に通知に書かれるまではグレーゾーンだった)

 

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(機関誌より)

2000年(平成12年)2月7日に医療類似行為(グレーゾーン)関連の交渉を7団体合同で行いました。

参加者: 厚生省からは、健康政策局医事課(医師法の考え方の担当)の法令係長、老人保険福祉局老人福祉計画課法令係主査(今回の総務庁勧告に対す る回答取りまとめ担当)と、障害福祉課身障福祉係長に出席していただきました。

背景: 最近、ヘルパーの医療類似行為に対して、一般ヘル パー業界や民間事業者からの規制緩和の声が出ていますが、そんな中、総務庁から「どこまでがヘルパーのできる行為か具体的に示せ」という勧告が出ました。 人工呼吸器利用者の吸引などは、長時間介護に入る自薦ヘルパーには簡単でも、たまにしか派遣されない一般ヘルパーに担わせるには問題が多く、「具体的に示 し」たら「だめです」という回答になってしまうことが明らかでした。

結果: まず交渉に参加した人工呼吸器利用者(単身24時間介護)2名から生活状況の説明をし、次に、ベンチレーターネットワークの人工呼吸器利 用者の生活資料を見せ説明しまた。

 さらに、吸引等医療類似行為は、全身性障害者の1 人暮し運動がはじまった70年代から自薦介護人が行っており、さらに、「本人の手のかわりとしてやっている」「不特定多数に対してやっているわけではない」という2点を説明しました。また、訪問看護婦や訪問医は人工呼吸器の設定を間違えて帰るが、障害者と自薦ヘルパーがそのつど直しているという事例を出して、長時間介護に入っている自薦ヘルパーは一般ヘルパーとは違うので切り離して考えるべきだと説明しました。

 医事課は、「今までもグレーゾーンということでやってきた」「今後もグレーのままがいいと思う」「はっきりとは(総務庁には)回答できないと思う」と話し、老人計画課も、吸引などについては、はっきり書かないことには異論はないようでした。

 何一つ回答しないわけにはいかないということの で、「薬やガーゼ交換程度はいいですよ」とだけ書けばいいのではないかと提案しました。総務庁への回答が3月末のため、まだ回答方針の検討に入っていない ということでしたが、ほぼ同じ認識になったので交渉を時間内に終えました。(自治体が吸引OKの方針でも、国はダメとは言わないということも確認しまし た)。

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その後、平成17年にヘルパーが行う行為で、あきらかに医療行為ではないものの例示の通知が出る

ホワイトゾーンの通知http://www.kaigoseido.net/horei/iryo/050726ikouikaisyaku.htm

(爪切りや服薬や市販の浣腸など)

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(機関誌より)

2001年(平成13年)12月6日の厚生労働省交渉の報告(医療類似行為(グレーゾーン)の交渉)

人工呼吸器利用者等の吸引と医療行為との関係についての話し合いを行いました

参加:医政局医事課企画法令係(医師法についての見解を担当)
   老健局振興課法令係(介護保険事業者の基準などを担当)
   障害保健福祉部障害福祉課身障福祉係

 7団体で吸引についての厚生労働省交渉を行いました。

 背景には、ある国会議員がヘルパーへの吸引行為開放をもとめて質問を行い、厚生省が「ヘルパーに開放する予定はない」と回答をしたという ことがありました。

 厚生労働省が明言「すべての吸引が医療行為とは かぎらない」

 交渉の中心は、吸引のすべてが医療行為かどうかという点です。これについては、話し合いの結果、「肺炎でICUに入っているような状態の方への吸引は医療行為だが、治療が終わって、在宅に帰って安定している方の吸引は、医療行為でない 場合がある。あらゆる吸引が医療行為ですかという質問に対しては、それは違うとはっきりいえます」と厚生省医事課として回答がありました。また、老健局振 興課は「吸引を行っているからと言って介護保険の訪問介護事業者指定を取り消しにするということはない」と回答しました。(障害福祉課も「同様です」と回 答あり)。もし、そのような指導が県からあれば、相談すれば厚生労働省から指導してくれるとの事を約束しました。 医事課は、「ある瞬間の吸引が医療行為かそうでないかは、一概に判断できない。その日の体調にもよるし、体調や周りの環境にもよって変 わってくる。もし、はっきりとどちらか判断しようと思えば、裁判を 行って、その瞬間の体調の状況、医療の経過、介護体制の状況などたくさん資料を集めて判決を出してもらわないとわからない」「医事課にはしょっちゅう「○○は医療行為ですか?」という電話がかかってくるが、「それだけを取り出して聞いても判断できない」と答えている」との事でした。

 自治体と交渉する際には、「すべての吸引が医療行為とはかぎらない(厚生労働省)」「吸引を行っているからと言って訪問介護事業者指定を取り消しにするということはない(厚生労働省)」との見解だけを使って交渉を行ってください。

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その後 平成15年 ALSにヘルパーが吸引していい条件を示した通知(違法性阻却の通知)が出、17年にALS以外全部の障害むけに同様の通知が出、ヘルパーは吸引できるようになったが、吸引は医行為という定義になった。その後養護学校教員に経管栄養を認める通知が出て、経管栄養も医行為になった。

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平成24年から法改正で正式に吸引と経管栄養の介助が「医行為だが研修を受ければOK」という適法になった。(特定の障害者向け研修は9時間+アルファの研修を受け、県に登録すればOK)。ただし研修はしょっちゅう開催されてないので、従来のヘルパー向け吸引の違法性阻却の通知も残された。

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平成24改正後でも、上記の個別事情論は維持されるのか=結論 維持された

 

(機関誌より)

2010年(平成22年)9月、10団体で、厚生労働省との意見交換会を行いました。
 医師法を所管する医事課(医療行為か否かを判断する部署)と、障害保健福祉部障害福祉課と企画課が参加。

 医事課は吸引と経管栄養以外の医療的ケア(摘便やカニューレ交換などいろいろ)については、グレーゾーンなので、2001年の障害者団体との交渉当時の医事課の回答を踏襲して、従来どおりの対応をします(医療行為かどうか判らない)と確認しました。つまり、今まで通り、介護保険や自立支援法のヘルパーが医療的ケア(医療類似行為)を行うのは事業所の自由です。

 医事課:今回(24年法改正で)たんの吸引と経管栄養は「医行為だけども一定研修を受ければできる」というふうな扱いにする、というのが検討会の内容ですが、医行為だけどもできますよ、というのを今回明確化しました。(それ以外の医療的ケア全般についてグレーゾーンということでいいですかとの質問ですが)グレーゾーンの話というのは、新しく取り扱いを変えるというわけではありません。

団体:ということは、2000年と2001年の交渉のときの回答であった、グレーゾーンでの取り扱いは、今後も変わらずということですか?

医事課:グレーであることは個別の事情を見ないとわからないっていう回答をせざるをえないので、それをグレーゾーンというふうにご理解いただければ。

団体:市町村からの問い合わせに対して、たとえば重度訪問介護でグレーゾーンの医療的ケアをやっていいのか市町村から問い合わせがあると思うが、医師法違反と言われると重度訪問介護を支給決定しない市町村がある。そこは、グレーゾーンの医療的ケアはグレーゾーンと答えていただけるのか?

医事課:市区町村からの問い合わせが医事課に日々寄せられているところですが、基本的には医行為といいましても非常に幅広いので、手術をするとか腹を開けるというのは「医行為ですね」ということでお答えするところはあるんですけども、やはり今日の話で言う医療的ケアというのは非常に微妙なものが多いと思います。人体に影響があるのかないのかよくわからないと、体には触れるんだけども、影響があるのかちょっとよくわからないなあ、というところは結構あります。で、その辺はやはり最終的にはやっぱりグレーゾーン、「グレーゾーンといいますか、個別具体的な利用者さん患者さんの状況も含めて判断しないと、やはりなかなか電話で、この場で明確にはお答えできないですね」、という形で基本的にはお答えさせていただいております。   

 

厚労省障害福祉課長「グレーゾーン介護を理由にヘルパー支給決定しない市町村があれば、厚労省がしっかり説得します」

 また、上記の医事課との確認の後、厚労省の土生障害福祉課長より、(1人暮らしの障害者などでグレーゾーンの介護があることを理由に、市が重度訪問介護の124時間等の支給決定をせずに、病院から退院できなくなっている事例があることに対して)、「そういうグレーゾーンを理由に市町村が支給決定をしないというようなことがあれば、厚労省としてしっかり市町村を説得します」という回答がありました。

 

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2015年 静岡県庁が不服審査請求の裁決書で「アンビューの介助は医行為の可能性が強い」と記載。障害者団体が厚労省医事課と話しし、医事課が静岡県とやり取りしてしっかり叱ってくれています。

 

2021年

厚労省医事課等との2021年5月懇談報告

 

まず解説

2021年3月下旬に医療的ケアの必要な通所施設等で看護の配置のために加算をする目的で、「厚労省告示89号:厚生労働大臣が定める医療行為は、次に掲げるものとする」ということで、次の12項目が挙げられました。

 

@気管切開の管理

A鼻咽頭エアウェイの管理

B酸素療法

Cネブライザーの管理

D経管栄養(経鼻胃管、胃瘻、経鼻腸管、経胃瘻腸管、腸瘻又は食道瘻によるも のに限る。)

E中心静脈カテーテルの管理

F皮下注射

G血糖測定

H継続的な透析

I導尿

J排便管理(消化管ストーマの管理又は摘便、洗腸若しくは浣腸(医療行為に 該当しないものとして別に定める場合を除く。)の実施に限る。)

K痙攣時における座薬挿入、吸引、酸素投与又は迷走神経刺激装置の作動等の処置

 

これらの多くが厚労省との話し合いでグレーゾーン(医師法第17条の医行為に該当するかどうかは曖昧にしておいたもの)として、訪問系サービスで行ってきた経緯があるので、今回急にこのような告示が出されたことに驚きましたが、障害者団体が厚労省担当者に詳しく聞いてみると、厚労省の障害児の担当室が、在宅ヘルパーのグレーゾーン介護の問題を失念して、告示の題名をよく検討せずに、単純に「大臣が定める医療行為」という題名にしてしまったようです(後に、担当者は、「誤解のない、もっと別の名称にすればよかったと言っています」)。

この告示については、話し合いの結果、医師法17条の医師しか行えない「医行為」の範囲を決めるものではなく、あくまでも介護報酬を加算する医療的ケア利用者の範囲を定める目的のもの(医師法の医行為とは無関係)ということになりました。(厚労省医事課(医師法の管轄)の解釈が確定しました。)

担当室長は元医事課の職員で、医事課(医師法の解釈担当)の法令担当とも綿密に打ち合わせの上、このような整理になりました。(医事課の解釈は、従来から、病院での診療報酬の対象行為=医師法の医行為ではない(医行為ではないものも含まれる)、なので、同等の解釈です)。

 

告示に書かれた項目を医師法17条の医行為(医師および医師から指示を受けた看護師しかできない)と勘違いする自治体が出ることが予想されたため、説明のQ&Aをすぐに出してもらうことになり、厚労省障害福祉課は「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.2 (令和348)」(P16)で

「同告示は、従来より看護職員加配加算等の算定の対象となってきた「医療的ケア」について、障害児通所支援における医療的ケア児に係る基本報酬等の算定対象とする上で、改めてお示ししたものであるが、「医療行為」の範囲について新たな解釈をお示しするものではない。」

https://www.mhlw.go.jp/content/000766855.pdf

と、グレーゾーンの存続を意味するQ&Aを出してくれました。

 

この告示が出された背景は、施設等に看護師の配置を強化して医療ケア利用者の受け入れを強化するためで、@療養介護の対象者要件A生活介護の常勤看護職員等配置加算(U)B福祉型強化短期入所の対象者要件と医療的ケア対応支援加算C共生型短期入所の対象者要件と医療的ケア対応支援加算D共同生活援助の医療的ケア対応支援加算E児童発達支援の看護職員加配加算(T)(U)F放課後等デイサービスの看護職員加配加算(T)など施設等の介護報酬の加算などのために今回の告示が出たという流れです。

 

厚労省との懇談内容

2021年5月27日に、全脊連(主担当)、介護保障協議会、DPI、さくら会ほか障害者団体25団体と厚労省(医事課、障害福祉課訪問サービス係、障害児・発達障害者支援室)で改めて会合を持ち、グレーゾーンの範囲に変更がないことの表明が医事課よりありました。

 

(事前に今までの20年間の話し合い経過と、外出時の摘便や導尿利用者や室内での頻繁な呼吸管理利用者など今回の12項目で困ったことになる障害者の全国の50以上の事例を見せて相談済みでした )

 

厚労省医事課

(医療的ケア児支援法案や2021年89号告示に医療行為として12項目が表示されることに関して医師法17条の医行為の範囲が変わるかどうかに対して) これまでの解釈をなにか変更を加えるものではありません。個別の行為を見て判断されることになるという部分については、変わりません。それをグレーゾーンと表現するのであればこれまでどおりです。

解説すると、個々の行為が医行為なのかどうかはグラデーションになっていて、医行為に当たるものと当たらないものと、個別に見ていかないといけない。

喀痰誘引ついては、あれは医行為なんだけれど必要性緊急性が高いので違法性が阻却されるという考え方をお示ししてきた(2003〜)ものを法制化した(2012〜)ものです。

違法性阻却の考え方についても、個別具体的に状況に当てはめなければ、判断できないもの。そういった二重の意味につても、個別につぶさに見ないことには判断できないものである。これは昔も今も変わらない。

そういう意味では、現場で行われている行為がグレーだという形で行われてきたのであれば、それをなにか変更するものではない。

 

このようにしっかりと表明がありました。

 

(グレーゾーン介護を理由に重度訪問介護などを支給決定しない自治体があることについて)

また、障害福祉課からも、「(2010年話し合いで)当時の土生課長から、そういう自治体に対しては厚労省から指導していきたいという回答があった。そこも基本的には同じですので、個別にご相談いただければ、自治体の方には状況を聞いて、取り扱いについて、国として整理した形で、指導していきたい。そこも変更なしです。」との表明がありました。

 

 

自治体などがグレーゾーン行為を医師法違反だと障害者に言って来ることに対しては、医師法の解釈は、自治事務じゃないので、自治体に解釈権限はない。厚労省医事課だけが解釈する権限を持っている。まずはこのことを自治体に伝えて話してみてほしい、それでもだめなら問い合わせを。とのことでした。

 

このほか、医事課からの解説で「医者からも『診療報酬のメニューに載っていたら、その行為は医行為じゃないのか』といった勘違いの質問が来ることはあるが、診療報酬のメニューに載っているからと言って、その全てが医行為ではない」との解説もありました。

 

 

 

また、今後人事異動の際にも、今回の話はきちんと引き継いでいくと厚労省から表明がありました。

 

参加者 医政局医事課 課長補佐  (看護課・歯科保健課併任) 法律の担当

     障害福祉課 課長補佐  (訪問サービス係の担当補佐) 

     障害福祉課障害児・発達障害者支援室 室長 (今回の告示を出した部署)

 

2021年5月27日懇談情報は以上

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20216月に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律案」が超党派の議員立法で成立しましたが、「「医療的ケア」とは、人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引その他の医療行為をいう」との条文があるため、同様の誤解が生じかねないため、与党議員に対策をお願いしました。

その結果、

衆参の附帯決議にも以下の内容を加えていただけました

 

 四 本法の定義規定において、 「「医療的ケア」とは、人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引その他の医療行為をいう」とされたことに伴い、 「医療的ケア」に係る「医療行為」の範囲が変更されたかのような誤解を招くことがないよう、適切に周知を行うこと。

 

(解説:従来のグレーゾーンは今後も同じ考えということです。人工呼吸器による呼吸管理・その他の医療行為がすべて医師法17条の「医行為」(医師しか行えない)になるわけではないという意味です)

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■厚労省との医療的ケア(医療類似行為)の話し合いの報告 2010/11/09

■吸引や医療類似行為の過去の交渉のまとめページ

■2010年9月厚生労働省医事課・障害福祉課ほかとの話し合いの要望資料  全脊連・介護保障協議会ほか10団体の資料

■医療行為でないと判断されるヘルパーの業務についての通知 医政発第 0726005号平成17726 2005/08/10